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そうしたら、事実、瀧内公美が出演者の発表時に寄せたコメントを見ると、「制作者のみなさまからは、役柄のヒントは源氏物語でいう“六条御息所”と、現段階では言われております」と記されていた。

無実の父親を殺された恨みを、自身が生霊となって果たす。その発想自体は、平安王朝の女性がもったとしても不思議なものではない。

基本的には脚色だと思ったほうがいい

しかしながら、明子がそういう意図をもって詮子のもとに引きとられたとは考えにくい。また、『光る君へ』は第14回「星落ちてなお」(4月7日放送)で、明子が憎んだ藤原兼家が死去するようだから、ドラマでは、彼女は呪詛によって命を奪ったと納得し、その後は道長ら藤原氏に対して敵意を抱くことをやめる、という展開になるのかもしれない。

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しかし、普通に考えれば、道長は姉に勧められて天皇の孫である明子と結婚し、高貴な血を自身の血統に入れ、明子もまた、それによって藤原氏の後ろ盾を得ようとしたのではないだろうか。

だから、道長も明子のことをそれなりに大切にした。道長ほどの権力者でも、生涯を通して正式な妻は倫子と明子の2人だけで、倫子とのあいだに2男4女、明子とのあいだに4男2女をもうけ、それもほぼ交互に生まれている。

笑わない明子や、その呪詛は、脚本家がドラマにつけた凹凸だといえる。絶対になかったとはいえないが、基本的には脚色だと思ったほうがいい。ただし、平安時代とはそういうことが行われていた時代だと、この凹凸から感じとるのは悪いことではない。

香原 斗志(かはら・とし)
歴史評論家、音楽評論家
神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。日本中世史、近世史が中心だが守備範囲は広い。著書に 『カラー版 東京で見つける江戸』(平凡社新書)。ヨーロッパの音楽、美術、建築にも精通し、オペラをはじめとするクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』、『魅惑のオペラ歌手50 歌声のカタログ』(ともにアルテスパブリッシング)など。