中国ではかつて、農民にとっての土地(農地)は自分のルーツであるとよくいわれていた。だが、土地の所有を禁じる社会主義体制の今は、都市部の住民も地方の農民も、自分の土地を所有することができない。今の中国人は自分が浮草のような存在と感じているだろう。
さらに、コロナ禍で中国は無法地帯と化した。中国政府は2020年から3年間にわたり、厳しい隔離措置を軸とするゼロコロナ政策を実施。一部の地域では白い防護服を着た役人とみられる連中が勝手に民家に侵入し、ベッドの上にまで消毒液を撒き、犬や猫などのペットを殺処分した。中国の民法で保障されている最低限の私有財産権が侵害されただけでなく、憲法で保障されている人権もとことんまで踏みにじられた。中国では「正しいこと」をするためなら、法的根拠など必要がないという風潮がある。ここでいう「正しいこと」とは、政府共産党による指示である。
それでもマイホーム購入に執着するわけ
ここまでの仕打ちにもかかわらず、中国人は賃貸で家を借りるよりも、マイホームを購入することに執着する。そのため中国の不動産市場は、取引の量では飛躍的に拡大しているが、構造的に著しく歪んでいる。
なぜ中国人はマイホームにこだわるのか。それには2つの理由がある。1つは賃貸で家を借りた場合、せっせと家賃を払っても、退去時に自分の手元に1人民元の財産も残らないということだ。中国人の価値観からすると、なんとなく損したような気分になる。要するにマイホーム購入は、住むための手段を確保するというよりも、財産を蓄えるためという側面が大きいのだ。もう1つは、信用の問題だ。賃借契約が成立するための条件は、貸すほうと借りるほうの両方が、きちんと契約を履行することである。しかし中国社会では、契約をきちんと履行すべきという文化は十分に定着していない。トラブルを回避するためにも、マイホームを購入したほうがいいと考えられているわけだ。