1ページ目から読む
2/3ページ目

都心にある「限界集落」とは

――新刊『マンモスの抜け殻』では、「都心の限界集落」というキャッチフレーズも、衝撃でした。本来は、極端な高齢化と人口減少が進んだ山間地の集落を指す言葉です。

相場 住まいの近くに古くからのマンモス団地がありまして、かつては夕方ともなると、子供たちの声が響き渡っていたんです。ところが今は、広場も静かで、団地の周辺道路には、介護施設の車が入れ替わり、立ち替わり停まっています。独居老人も多いため、孤独死の多発地帯でもあります。都心にある、かつてのマンモス団地が、そのころの活気を失って、抜け殻のようになっている。

 都会で起きている現象は、数年遅れで地方にも波及する。つまりは、このマンモス団地の抜け殻は、ニッポンの縮図なんです。

ADVERTISEMENT

――今作は、孤独死が多発する地域で、介護施設を経営する老人が遺体となって見つかり、主人公の刑事が、事件を担当することになります。

相場 主人公の男性刑事の母親に、痴呆症の気配があり、「親の介護問題」に直面します。その悩みを振り払うかのように、彼は捜査に没頭していく。まるで私を投影しているような人物です。

 

ひりひりする現実を見つめてほしい

――苦しい現実から逃げるために、仕事をする、ということはありますよね。小説のあるシーンが印象的でした。刑事と妻が、自宅のリビングで親の介護問題について話し合っている。そこに殺人事件の一報が入り、刑事は、すぐに現場へ向かおうとする。すると妻は、「事件が起こって、あなたとっても嬉しそうよ」と。

相場 身内の介護問題からは、やはり目を背けたいものなんですよ。ところが、この刑事は捜査を進めながら、介護業界の厳しい実態を知っていきます。読者のみなさんも、目をそむけたくなるかもしれないですが、ひりひりする現実を、しっかりと見つめてほしいと思います。

 今のままのように、厳しい労働環境で従業員を働かせて、そういった環境でサービスを受けるという負の循環は、かならずどこかで破綻します。夜間にお年寄りに、施設のスタッフが暴力をふるったというニュースを読むと、もう崖っぷちだと感じています。