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若者の心を監禁する介護業界

――小説内では、介護業界で働く人が、「介護業界は、善意に溢れ、やる気に満ちた若者の心を監禁するんです」という言葉を発します。驚きました。

相場 介護問題に詳しい中村淳彦さんからうかがったフレーズです。介護職を志すのは、人のために働きたい、という真面目な人たちです。そこに付け込んで、善意あふれる、ふわふわした言葉で彼らを包みこんで、ある種、洗脳しているという状況もある、と。

 政府も、「民間の力を有効に活用する」というキラキラとしたフレーズ、美辞麗句を並べたて、業界への参入障壁を低くして、実態は「民間に丸投げ」です。

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 お年寄りの命を預かる、人生の幕引きに伴走する、尊敬されるべき仕事です。今の現実は間違っています。もちろん公的援助に頼っていても、業界に未来はありません。

 そこで、ある女性投資家を登場させました。有能な経営者の視点から言えば、老人が増え続けることが確実である以上、市場としては将来性がある、といえるのではないか、と。

 この投資家は、介護業界への投資を決断します。周囲からは「無謀だ」と指摘されますが、彼女には「あるプラン」があるんです。小説の中の絵空事と言われるかもしれないですが、あり得ない話ではないと私は思っています。この業界にはまだ可能性がある、と。

 

 映画「ミスティック・リバー」を彷彿とさせる切ない展開

――この小説のもう一つの読みどころは、幼馴染3人が、40年の時を経て再会するというストーリーです。一人は刑事になる。もう一人は投資家になり、介護業界に希望の光を灯そうとする。三人目は心優しい男で、介護施設職員になって、その優しさを搾取されている。冒頭で起きる殺人事件の容疑者になった幼馴染を救うために、刑事が奔走するという物語です。

相場 『ミスティック・リバー』という好きな映画があるんですが、これを小説で書いてみたかったんです。ある心の傷を負った幼馴染3人が、まったく別の人生を歩んで、あることをきっかけに、「昔の出来事」に引き戻される。介護業界の闇の先にある希望を描きたいと思っていますが、私はジャーナリストではありません。そのことを、物語に託して描いたつもりです。

 子どもにとって、精肉店の揚げたてのメンチカツって、ご馳走なんです。ラードで揚げて、香ばしい匂いがして、ソースをかけて、熱々を一緒に食べた友だちは特別な存在です。たとえ、お互いに心に傷を背負っていても……。40年もたつと、お互いの境遇があまりにも変わっていて、再会することなんてないはずですが、「もし再び巡りあったら」という、ちょっと切ない展開も楽しんでもらえると嬉しいですね。

(取材・構成:第二文藝編集部)

■相場英雄 あいば・ひでお

1967年新潟県生まれ。89年に時事通信社に入社。2005年に『デフォルト 債務不履行』で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞し、デビュー。12年BSE問題を題材にした『震える牛』が話題となり、ベストセラーに。13年『血の轍』で第26回山本周五郎賞候補、第16回大藪春彦賞候補。16年『ガラパゴス』で第29回山本周五郎賞候補。17年『不発弾』で第30回山本周五郎賞候補となる。他の著作に『覇王の轍』『心眼』『サドンデス』などがある。『トップリーグ』『震える牛』『ガラパゴス』など映像化された作品も多い。

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