「普通にアルバイトをする以上にお金が稼げて、いい思いができるかもしれない――」
若かりし頃、マルチ商法の勧誘に引っかかってしまった、詐欺・悪徳マルチ撲滅系YouTuberのKENZO氏。いったいなぜ初対面の相手に60万円もの大金を預けてしまったのか? そして、その巧妙な手口とは? 初の著書『突撃!:新宿109 詐欺・悪徳マルチ撲滅活動日記』(彩図社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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「稼いでいる人を紹介したい」
そんな友人の言葉を受けて会ったのは、“タカハシキョウスケ”という男だった。
場所は、名古屋だった。
それまで三重県から出たことがなかった俺は、名古屋駅に降りただけで「ビル高いなあ……」と都会の雰囲気に圧倒されてしまった。
待ち合わせたのは、栄にあるカフェ・ド・クリエだった。
これは後になって知った“マルチあるある”だが、マルチの会員は勧誘のとき、「個別会計かつ前払い制」のカフェを好んで使う。そこだとターゲットにおごらずに済むからだろう。
タカハシは大学生風の若者で、年齢を聞くと俺と同い年だった。つい最近まで愛知県のとある大学に通っていたというが、稼ぎ過ぎて辞めたという。
「俺はこのビジネスで突っ走る!」
タカハシは自分自身に言い聞かせるように、熱っぽく語った。
冷静になれば、「稼ぎすぎたから大学を辞める」必要などまったくないのだが、当時の俺は違った。
・稼ぎたいという欲求
・都会の雰囲気に呑まれている
・同い年の男性から自信あり気な説明
これらの要素から冷静さを失い、タカハシの陳腐なマウントトークを真に受けて、話を前のめりに聞いてしまったのだ。
タカハシはバッグから一冊の本を取り出すと、俺に読むように勧めた。『金持ち父さん貧乏父さん』(ロバート・キヨサキ著)というベストセラー本だ。これも“マルチあるある”で、勧誘の場面では嫌というほどこの本が登場する。
世の中には、自分が知らない世界がある――。
タカハシの言うとおりに動けば、普通にアルバイトをする以上にお金が稼げて、いい思いができるかもしれない――。
熱のこもった勧誘トークを聞いているうちに、俺はそんな期待を抱き始めていた。そうして誘われたのが、資産運用会社を通してハワイの不動産を共同購入し、家賃収入で利益を得るというビジネスだった。
「こんなにおいしい話を逃すのは、バカだ!」
タカハシはそういって俺を煽ってきた。
「そういえば、この間読んだ本でも不動産投資を勧めていたな」
投資関連本を読みかじって、賢くなったつもりでいた俺は、タカハシのセールストークに引き込まれていった。
「ココまで話を聞いて断るのはダサい」
そう思ってしまった面もあった。
若者特有のプライドが邪魔して、情報を精査してから決めるという選択肢はいつのまにか消え失せていた。そして、俺は投資への参加を即決すると、その日のうちにアルバイトで貯めた60万円を銀行口座から下ろし、タカハシに手渡してしまったのだ。