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彼女が権力を求める理由

 この数年、テレビメディアが作った「スター」の転落を様々な形で目にしてきた。魅力的な「物語」を持つ人物を求め、消費する。専門性や本来の業績ではなく、外見や経歴などの表面的な評価、巧みな宣伝によって、スポットライトを浴びる人々が次々と生み出される。テレビに出ている、というだけで人物に対する評価を甘くしてしまう。

 真贋(しんがん)を見極めることをメディアが放棄すれば、虚が実を凌駕(りょうが)するようになる。内面に蓄えられた実力というものが評価されず、自己宣伝に長けた人が跋扈(ばっこ)する。平成から現代に至るまで、空虚な人々が増え、社会そのものからも、実というものが抜け落ちていったように思える。有名になりたい、栄光を得たいという抑えがたい欲求から、虚の人生を作り上げてしまう時代の寵児たちの姿がある。

©文藝春秋

 小池百合子は、「上昇志向の塊だ」「権力に憑かれた女だ」と評されている。私も執筆中、そのように考えた。また、自分の「噓」を守るためにも、権力を保ち続けなくてはならなかったのだろう、と。しかし書き終えてみて、彼女が権力を得ようとするのも、すべては自分への賞賛を求めてのことではないか、と感じるようになった。礼賛の声を聞くために、光を求めて荒野を彷徨い、より強い光を浴びようと欲して権力の階段を上り続けているのではないか、と。

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 都知事になってからの行動や政策にも、それは明らかだろう。

 コロナ対策では感染者を収容したホテルの各部屋に「小池百合子」からの励ましの手紙を届けさせ、約11億の都税を使って自分が出演するテレビ・ラジオCMや動画を流し、「東京アラート」と称してレインボーブリッジを赤く染めた。他府県の知事たちが検査の拡充、患者を収容する病院の確保といった重要課題に必死で取り組む中、都のコロナ対策はメディア受けを狙った小池カラーに染められていった。

カイロ大学の不可解な声明

 学歴詐称問題のその後にも、触れておきたい。本書の出版後から大きな話題となり、2020年6月の都議会でも追及されたが、小池氏は説明を避け続けた。そうした中で6月9日、駐日エジプト大使館のフェイスブック上に突如、「カイロ大学は正式に小池百合子氏の卒業を認める」という不可解な文書が発表され、これを朝日新聞などが、「カイロ大学が声明を発表」と報道した。その結果、カイロ大学が小池氏の卒業を認めた、小池氏は卒業しているのだ、と社会は納得させられ、学歴詐称問題は沈静化していった。

 だが、そもそも、この「声明」がどのような意図に基づき、誰によって出されたものなのか。本文庫化においても注として本文に追記したが、小池側からその後公開された卒業証書に書かれている文面の疑問点について、日本のメディアは何も検証をしていない。私と文藝春秋は「声明」が出された背景を知るために、カイロ大学、また、在エジプト大使館に連絡を入れたが、担当者が応じることはなかった。