「芦屋令嬢」として育ち、謎多きカイロ時代を経て、キャスターから政治の道へ――。常に「風」を巻き起こしながら、権力の頂点を目指す政治家・小池百合子。『女帝 小池百合子』(石井妙子著、文春文庫)は、今まで明かされることのなかったその数奇な半生を、ノンフィクション作家が3年半の歳月を費やした綿密な取材のもと描き切った。
石井さんは、カイロ時代の小池都知事の同居人・北原百代(きたはら・ももよ)さんに話を聞いている。そのなかでエジプト留学中の小池都知事について、きわめて重大な証言がいくつもあった。以前は仮名で登場していた北原さんだったが、このたび実名での証言を決意した。
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黙っているべきか、真実を世間に伝えるべきか
「こんな理不尽なことが許されていいのか」――。
嘘をついた当人は権力の階段を駆け上り、事実を知っている人が嘘の重みに耐えきれずに苦しんでいる。
それが初めて北原百代さんに会って話を聞いた際に、私が感じたことだった。
北原さんは、今から50年ほど前、エジプトの首都カイロでひょんなことから留学生であった小池百合子氏と同居生活を送った。たったの2年間。しかし、その2年間によって彼女は生涯、苦しむことになってしまう。
なぜなら、その後、帰国した小池氏が「カイロ大学を卒業した才媛」として、自らをメディアで売り出していったからだ。
だが、小池氏が、カイロ大学を卒業できなかった経緯を同居人であった北原さんは知っていた。いわば、学歴詐称を知る生き証人となってしまったのだ。
小池氏がテレビキャスターであった時代は、「小池さんらしいな」と驚きながらも、黙認してきた。だが、国会議員になったと知り、悩むようになった。公人の経歴詐称は許されることなのか、と。
小池氏が大臣になり、さらに北原さんの悩みは深くなった。
黙っているべきか、真実を世間に伝えるべきか。心は揺れた。周囲に相談すると、「権力者を批判してもいいことはない」と言われた。時には「小池さんの出世に嫉妬しているの?」と言われることもあった。