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出ては消える緊急事態宣言。二転三転する状況で直面した「弁当作り」

 これが2020年前半の最初の緊急事態宣言下。しかし、それがあけても世情は二転三転する。秋になるとGoToトラベルがはじまり、売り上げも回復してくると思いきや、2021年に入ると再び緊急事態宣言へ。

 4月の駅弁の日にあわせて開発していた「ひっぱりだこの蓋」を繰り上げて販売したり、壺の色をいろいろ変えてみたり、「忘れられたら終わり」(柳本さん)とあの手この手。そうこうしているうちに、足元の売り上げも回復し、危機を乗り切った。

「なんとかなった理由はいろいろあるんでしょうが、ひとつは動いた結果ですよね。

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 そして、それもこれも『ひっぱりだこ飯』が1000万個も売れて、多くの人に知っていただいていたおかげ。いまではもうコロナ禍前を超えています。

 価格の値上げもありますが、コロナ禍前は年間売り上げが42億円だったところ、昨年の決算では52億円までいきました。特に去年の春はリベンジ消費が大きすぎて、今年はそれを超えるのが大変で苦労しているくらいです(笑)」(柳本さん)

 もちろん、これからも攻めの姿勢は失わない。5月11日には、神戸大阪鉄道開業150周年の記念弁当を発売する予定だ。神戸と大阪で、別々の商品をひとつずつ。また、2020年に完成していた東京の工場もコロナ禍を経て稼働しており、ラゾーナ川崎プラザにも出店している。いまや、「ひっぱりだこ飯」をはじめとする淡路屋の駅弁は、駅弁の範疇を超えつつあるということか。

柳本雄基さん ©鼠入昌史

「駅弁」であることの“特別な意味”

 だが、柳本さんは「鉄道に対する思いは強い」と話す。

「国鉄時代から鉄道とともにずっと歩んできたということは自負しています。だから、鉄道文化については特別な思いを持っています。

 どこかの駅が何周年ということであれば、採算どうこうではなく記念弁当を出しますし、もしも列車が立ち往生してお客さんが困っているというのであれば、それが何時であっても我々は弁当を調製してお届けする覚悟も持っています。

 ただ商売でやっているのではなくて、駅弁を食べてもらってそれを通じて鉄道を好きになってもらいたい。これまでも鉄道と歩んできたのだから、これからも鉄道とともに歩む。この気持ちだけは、誰にも負けないと思っています」(柳本さん)

 駅に並んでいるありとあらゆる弁当や軽食。駅弁というのはいったいどこからどこまでを含めるのか、曖昧になっているといっていい。

 厳密な意味では、駅弁マークの入った日本鉄道構内営業中央会加盟業者の弁当が駅弁、ということになるのだろう。それをもう少し観念的に捉えれば、鉄道文化に対する思いがスパイスになっている弁当こそが、駅弁といっていいのかもしれない。