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『ちびまる子ちゃん』のTARAKO脚本回

 舞台だけでなく『ちびまる子ちゃん』の脚本も書いている。00年の「花のお江戸にこんにちは」の巻を皮切りに、数年にわたって30本以上の脚本を手がけた。まる子の友達や家族にスポットをあてたエピソードが多いが、山崎ハコが本人役で出演し、「呪い」がエンディングテーマに使われて話題を呼んだ02年の「まる子、フォークコンサートへ行く」もTARAKO脚本回である。

 先のコラムには「いつかはテレビや映画の脚本もやってみたいです」と記していたが、熱い思いは変わらなかった。20年に、ラジオに出演したときも「映画を作ります。作・演出で。短編で。絶対に絶対に夢をかなえます」と断言していた(『伊集院光とらじおと』前出)。

 歌と作詞作曲を皮切りに、声優とナレーターは30年以上続け、タレントとしても活動し、脚本家、演出家としても活躍した。さらに映画を作る夢も持っていた。WAKUプロデュースの舞台にも出演した声優の山寺宏一は対談で「自分のなかにいろいろなものをもっているよね。自分から発する人なんだなと思う」と話している(前掲書)。

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 TARAKOといえば『ちびまる子ちゃん』のまる子。それは間違いない。しかし、それは一部に過ぎないのだろう。生涯を通じて、ものすごい勢いで、全身を使って、いろいろなものを表現し続けていた。

©文藝春秋

「ただね 生きててほしいんです そこにいてほしいんです」

「家族」「友達」「音楽」「芝居」「恋すること」――これは「好きなもの、いーっぱい♡」と題されたコラムで挙げられていたものだ(『小説club』90年12月号)。TARAKOの活動や作品の中で、これらのことは存分に表現されていた。さらにつけ加えるとするなら「いのち」と「生きること」ではないだろうか。

『ちびまる子ちゃん』でTARAKOが脚本を手がけたエピソードに「大切ないのち」の巻がある(03年)。クリスマスイブに赤ちゃんが生まれそうな野良猫と「弟も妹もいらない」とサンタさんにお願いした小さな男の子の物語だった。

 ラストは、野良猫親子は友蔵のももひきに守られ、男の子は妹の誕生を喜び、それぞれの家には笑顔があふれ、みんなを見守るように夜空に光が輪を描いて、「みんな同じ大切ないのち。メリークリスマス」というナレーションで締めくくられる。

 23年10月、WAKUプロデュースの舞台「something どこにいてもここ」を告知するブログには、「天使」(彼女は亡くなった人や動物をこう呼んだ)になった猫たちの写真に添えるように、こう書かれていた。「ただね 生きててほしいんです そこにいてほしいんです いなくならないで ぬくもり消さないで」。

 まさかこんな急にいなくなってしまうとは思わなかったが、表現することが大好きだったTARAKOは、ずっとずっと好きなことを好きでいたまま、みんなを見守る「天使」になったのだろう。