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――どういうことでしょう。

渡辺 漫画家も含めて、クリエイターの世界は才気溢れる人たちが多い世界で、特に有名な監督や芸能事務所の社長、作家や漫画家、名物編集者などは、個性的だったりカリスマがあったり変わっていることがむしろ武器になることがありますよね。

 私自身も、そういう「奇抜な行動をするクリエイター」を理解しないと「頭の固い人間」と言われてしまうのでは、という恐怖や畏怖を感じていた時期があるので、ジャニー氏に何も言えなかった人の気持ちもわかる気がするんです。芸能と出版の業界は違いますが、「面白い人」に一目置きがちなのは共通するように思います。

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――「才能がある」とされる人のスキャンダルでは、「あの才能をつぶすのか」「聖人君子であることは求めていない」という形で擁護する声が上がります。

渡辺 特にクリエイター的な仕事をしている人にとっては、「才能がある人を理解しないつまらない人間」と言われるのは辛いですよね。私も含めて「おもしろ至上主義」みたいな価値観を浴び続けたことで、にぶくなっていると思うんです。でも素晴らしい作品を作った人だとしても、クリエイターである以前に同じ社会に生きる1人の人間じゃないですか。仕事で何をやったかのみで人を見るのって、相手を持ち上げているようで平等な人間として見ていない失礼な視線とも言えると思います。

「おもしろさを優先して、パワハラ気質から目をそらしていた」

――「おもしろ至上主義」は言い得て妙ですね。

 

渡辺 私がそれを考えるようになったのは、ある映画監督がきっかけでした。同世代のすごくセンスのある監督で、私も少し接点があったので、周囲の人に彼の作品を勧めていました。でも後に、彼の映画に出演した俳優さんが、彼からハラスメントを受けたと告発したんです。

 それで改めて映画を見直すと、たしかに彼の映画は男子校的なパワハラ気質に満ちていました。それなのに、私はおもしろさを優先してそのパワハラ気質から目をそらして賞賛してまわりの人にすすめていたんです。それに気が付いて、すごく反省しました。

――後にならないと気づけないことがある一方で、何年か前の出来事を告発した人に対して「なんで今さら言うのか」という非難も必ず起きます。『恋じゃねえから』でも、14歳当時のできごとを40歳になってから問題にしています。