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渡辺 まず時代の変化は大きいですよね。20年くらい前だと教師と生徒の禁断の恋みたいなドラマも普通にありましたし。それに私は今40代後半ですが、最近になってやっとわかったこと、気づいたこともたくさんあります。だから「なんで今更」とは思えません。

――『恋じゃねえから』でもう1つすごいと思ったのは、主人公が被害の当事者ではなく、その友人なことです。非当事者が問題に深くかかわるのは、一歩間違えばおせっかいになりかねないと思うのですが、どんな風にバランスを取っているんでしょう。

 

渡辺 大人になると、自分ではない人の被害を告発したとしてもどこまで本気で関われるのか、責任をとれるかという難しさはありますよね。

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 それでも、話を聞いてほしいと被害者の方が声をあげた場合には、まずはその声を尊重したい。漫画の中でも、理解しようとしてくれる人がいるのは大きな救いになるのでは、と思って描いています。

「好きだという気持ちはジャッジを曇らせますよね」

――逆に告発されたクリエイターのファンが、告発者を攻撃するのもここ数年何度も目にしてきました。漫画の中で彫刻家のファンの女の子が登場して、主人公たちを攻撃するシーンはゾッとしました。

 

渡辺 自分の好きなものが汚される、自分が楽しんでいたものが邪魔される、という感覚なのかなと思います。現実にもそのような反応を見るのは少なくないです。ただ被害に遭った人がいるのなら、尊重しなければいけないのは自分の「好き」や感謝よりも被害者の声のはずですよね。実際は大人でも難しい場合が多いですね。

――「推し」という言葉で、全てを肯定する雰囲気は強まった気がします。

渡辺 描いている時も、その点は担当編集さんとすごく話し合いました。実は私が前に好きだったK-popアイドルに近い人の性加害が発覚したことがありました。でもメンバーや事務所からは、そのことについて公なコメントはありませんでした。その性加害がわかったタイミングでは私自身は熱が冷めていたこともあって、深く追うことはありませんでした。

 でもその時「もし自分がそのグループを大好きな気持ちがピークの時にその報道があったら、自分はどう受け止めたんだろう」と考えたんです。恋愛じゃなくとも、好きだという気持ちはジャッジを曇らせますよね。人をすごく好きになったり、力をもらったりすることは尊いと思うけれども、危険もある。アイドルやスターであっても神聖視しすぎないことが重要だと、自戒を込めて思います。