賃貸物件を選ぶ際、入居希望者には“譲れない条件”があるだろう。地域によって状況が異なるため一概には言えないが、駅に近いほど条件が良く、賃料も人気も高い傾向にある。それでも、数多ある物件のなかには駅から遠いアパートやマンションも存在する。
東京近郊に住みながら、最寄り駅から徒歩30分以上、いわゆる“駅遠物件”に住む人々はどのようなきっかけでその物件を選び、どんな生活を送っているのだろうか。“駅遠物件”の住人に話を聞いた。
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体調不良や騒音が原因で引っ越しを決意
現在、神奈川県を走る私鉄沿線のとある駅から徒歩30分のマンションに住んでいる松田敏さん(仮名・30代)。彼は1年ほど前まで、東京都目黒区の駅チカ物件に住んでいたという。
「目黒区に住んでいたのは約2年間ですが、その間にも同じ区内で1度引っ越しをしています。1軒目は、住みはじめてすぐに原因不明の体調不良で2度も病院に運ばれてしまいました。少しオカルトじみているかもしれませんが『もしかしたら家のせいかもしれない』と考えて、入居して1カ月で引っ越しをしたんです。退去後に判明したのですが、その家があるエリアは湿気が溜まりやすく、体調を崩すリスクがある地域だったようです」
急遽選んだ2軒目は築浅の賃貸マンションだった。湿気は感じられなかったが、大きな道路に面していたため“騒音”に悩まされるようになった、と松田さん。
元々は“駅チカに住むのが当たり前”だった
「車やパトカーの音が一日中聞こえるので、窓を締め切って生活していました。家賃は7万円で、そのエリアでは相応の金額でしたが、テレビも置けないくらい狭くて窮屈な1K。開放感もないし、住めば住むほど鬱々とした気持ちになりましたね」
松田さんの職業は、フリーランスのウェブデザイナー。家で過ごす時間が長いため、部屋の住みにくさが仕事にも悪影響を及ぼすようになり、昨年の春に再び引っ越しを決意したという。
「初めから『駅から遠い物件に住もう』と決めていたわけではないです。元々“駅チカに住むのが当たり前”という感覚だったので、考えたこともありませんでした。しかし、知り合いの不動産仲介業者に相談したところ『駅から徒歩30分かかるけど、広くていい物件があるよ』と言われ、この部屋を紹介されたんです」