自衛隊の任務と言ったら、何を思い浮かべるだろうか。国防、災害派遣、国際貢献あたりが多いだろう。だが、国防は平時の抑止を除けば有事の活動になるし、災害派遣は災害の発生が前提となる。自衛隊はそれらに対する備えではあるが、実際に戦争や被災で自衛隊の厄介になる事態は避けたいものだ。
しかしかつては、日本中で歓迎された自衛隊の活動があった。高度成長期を中心に、日本各地で行われ、多くの足跡を今に残している。しかし現在では行われることも稀で、知る人も少ない。本稿ではその知られざる自衛隊の活動、「部外工事」について紹介したい。
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防衛大臣は、自衛隊の訓練の目的に適合する場合には、国、地方公共団体その他政令で定めるものの土木工事、通信工事その他政令で定める事業の施行の委託を受け、及びこれを実施することができる。
これは、自衛隊の所掌事務の範囲と権限を定めた自衛隊法の第100条で、自衛隊による部外工事についての記述だ。簡単にいえば、公共工事を自衛隊が実施することを定めたもので、これらの工事は『部外土木工事(部外工事)』と呼ばれている。
同様の条文は、自衛隊の前身である保安隊の根拠法である保安庁法にも定められており、部外工事は保安隊時代の1952年から行われていた。
ウクライナ戦争でも地雷の設置や除去に活躍
この部外工事の担い手だったのが、施設科部隊(旧軍で言う工兵)だ。陸上自衛隊には様々な職種(旧軍で言う兵科)が存在するが、多くの人がイメージするのは、銃火器で武装した普通科(旧軍で言う歩兵)、戦車を扱う機甲科といった、直接戦闘に携わる職種だろう。施設科部隊はそういった戦闘部隊を、各種施設器材(建設機械など)を用いて支援する職種だ。
現在も継続中のウクライナ戦争では、2023年夏から開始されたウクライナによる反攻作戦が挫かれた大きな要因に、ロシアが構築した長大な防御陣地や地雷原が挙げられる。こうした陣地構築や地雷原の敷設も施設科の重要な任務で、逆に地雷を除去するのも施設科の仕事だ。いかに戦争において重要な役割を持つかが分かるだろう。
また、災害派遣で建設機械が役に立つのは言うまでもなく、東日本大震災の際は寸断された橋の代わりに、民間にはない架橋器材で短期間で橋を架けている。有事の際の頼もしい部隊だ。