2023年3月に逝去した坂本龍一が、死の半年前に行った、公の場では最後となるピアノ・ソロ演奏。
長編コンサート映画『Ryuichi Sakamoto | Opus』は、全編モノクロームの映像で、そのときの模様を映しだす。音楽映画でありながら静謐で、人生を感じさせる、感動的な作品が完成した。
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2022年9月、8日間にわたるピアノ・ソロ撮影
坂本龍一は2022年9月の上旬から中旬にかけて、8日間にわたり、「日本でいちばん音の響きがいい」と考えていたNHK509スタジオでピアノ・ソロの撮影を行った。
このピアノ・ソロは、まず同年12月に13曲を収めた『Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022』としてオンライン配信され、さらにセレクトされた6曲が2023年1月のテレビ特番『NHK MUSIC SPECIAL 坂本龍一 Playing the Piano in NHK & Behind the Scenes』で放送された。
そしてそのピアノ・ソロから全20曲を収め、長編コンサート映画のかたちにしたものが、今回公開となる『Ryuichi Sakamoto | Opus』だ。
2020年12月、余命宣告翌日のコンサートは不本意なものに
この撮影に先立つ2020年12月、彼はオンラインでピアノ・コンサート『Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 12122020』を配信した。
しかしこのコンサートが行われたのは、2020年6月に直腸がんと診断され、その後の転移により、なにもしなければ余命半年だと医師から余命宣告を受けた翌日のことだった。
そのためこのコンサートは、彼にとってかなり不本意なものになってしまった。
「心身ともに最悪のコンディションで、自分としては少なからず後悔が残りました」との言葉が、彼の自伝『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』には記されている。