1ページ目から読む
3/3ページ目
「お遊戯会で息子が出てくる感じかな。きゃああっ、頑張ってえ~! って。浮かれた気持ちとともに、育んで行く感覚よ。西川さんが好きなスポーツのチームを見てる感覚と近いんじゃないの」
「確かに二遊間を抜ける当たりをカープの菊池がさばいたときは……」
「たぶんそれ。恋愛感情とは違うでしょ」
「滅相もないよ」
「気がつけば口角が上がってるの。気持ち悪いのは自分でも承知してる。でも健康にいいんだよね」
「続けるべきだよ。これほど罪がなく、持続可能な健康法はない」
「私、計画ができたのよ。彼らが兵役を終えて再結集して、いつか日本にくる時が来たら、私は還暦くらいかもだけど、それまで元気に過ごして生でライブを見るぞとね。受験や就職の時さえ未来にプランを立てなかった私が、初めてよ」
「いいなあ、夢があって!」
職場では聞かせられない、タメにならない話をする夜
私たちの雑談に科学的根拠はなく、長電話は彼女の時間を奪い、私の執筆の手は止まった。だけどいいもんですよ。一対一で相手の肉声に耳を傾けながら、職場では聞かせられない、ためにならない話をする夜は。それが時代とコロナが私たちから奪ったものだ。一人で解決できない問題じゃないから人に話さない。取るに足りないことだから黙っておく。そんな自制の折り重なりが人を内側に籠城させ、喜びも思いやりも冷凍焼けさせていく。彼女の回復の話を聞きながら、私の内側に滞っていた空気も入れ替わった。まるで心の換気。皆さん、迷惑承知で、今晩誰かにいきなり電話をしてみませんか?