映画業界を目指す若い人たちに「トライしてよ。いい仕事だよ」と言うために

 気がつけば私よりずっと若くて多様な才能を持つ人たちが現れてきた。けれど彼らと話をしてみると、「日本で映画を作るって、こういうものなのでしょうか……」とすでに暗い影が瞳に宿っているのだ。これは自分たちが下を向いてきたツケだと思った。「好きなことを仕事にした人間はみじめな人生になる」という慣例が、映画の仕事に限らずこの国の次世代に渡されていくのだとしたらあまりに夢がない。

 

 映画に感動したことがあり、「自分も作ってみたい」と思ってくれた若い人に対して、「トライしてよ。いい仕事だよ」と言ってあげられる状況を作るためには何ができるのか。それは私が「良い作品作りをする」という本分に没頭し続けるだけでは埋め合わせられないことだろう。

 昨年はいろんなものが停滞したけれど、停滞の中でしか気づかなかったこともあった一年だった。新しい気づきと、新しい試みに踏み出せる、良い年にしたい。あけましておめでとうございます。

ハコウマに乗って

西川 美和

文藝春秋

2024年4月5日 発売

最初から記事を読む 「ナイター中継を最後まで流すこと」主演の沢田研二が『太陽を盗んだ男』で突きつけた政府への要求に思い出す、テレビのスポーツ中継でしか観られないものとは?