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 電車と違ってバスは信号で止まったり渋滞があったり、運賃収受やお客の対応などで時間を使うため、電車のような定時運行は難しい。バス停の時刻表に表記された時刻より遅れることなどしょっちゅうだ。なお、時刻表に表示してある時間より1秒でも早く発車してしまうと「早発」という運行ミス扱いになる。私の同僚で20秒早発して処分を受けた運転士が実際にいる。

「遅いじゃねえか。何分遅れているんだよ」

 お客にはそういったバス会社側の事情を斟酌しない人がいる。バス停に1分遅れて到着したときだった。

「お待たせしました。横浜駅行きです」

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 そう言って前扉を開けると、40代くらいの男性が乗り込んできた。

 不機嫌そうに顔をしかめ、自分の腕時計をこれみよがしに見せつけながら、「遅いじゃねえか。何分遅れているんだよ」と文句を言ってくる。

「1分しか遅れていませんよ。バスが道路事情によって遅れることがあるのは当たり前でしょう」

 そうノドまで出かかっているが、こうしたお客にそんなことを言えば火に油を注ぐことになるのは目に見えている。「お待たせして、すみませんでした」と謝る。

クレームをつけてくるお客が結構いるのがバス業界。写真はイメージ ©getty

 さすがに1分遅れで文句を言う人は珍しいが、5分ほど遅れたときは、電車に間に合わないとか会社や学校に遅れるとか言って急かしてくるお客や、クレームをつけてくるお客が結構いる。

 この仕事に就いたばかりのころは、こんなクレームが気になって仕方なかった。「おせーなぁ」と言われれば腹が立ったし、イラつきもした。言い返してやろうかと思ったのも一度や二度ではない。

 しかし、入社して1年ほどがすぎ、何度もこんな経験をするうちに慣れるようになった。「慣れる」という表現はおかしいかもしれないが、「そういうものだ」と受け入れられるようになった。それにより、腹立ちやイライラもずいぶんと軽減した。「慣れ」とはすごいものだと思う。

 一方で、こんなことに慣れて、何か言われても「そういうものだ」と思ってしまう自分が怖くなることがある。でも、慣れなければやっていられないのもバスドライバーの真実なのである。