ギャンブル依存症は意志や根性ではどうにもならない、治療すべき病気である――。
そう語るのは、「ギャンブル依存症問題を考える会」の代表理事である田中紀子さんだ。田中さんは祖父、父、夫のギャンブルと借金に振り回される人生を送り、自分もまたギャンブル依存症になってしまった過去がある。
ここでは、ギャンブル依存症が引き金となった事件をまとめた田中さんの著作『ギャンブル依存症』(2015年刊行、角川新書)から一部を抜粋して「伊藤忠関連会社社員7億円横領事件」について紹介する。(全3回の2回目/最初から読む)
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伊藤忠商事からニュージーランドにある森林木材事業の関連会社に出向していた30代の経理担当元男性社員が、12年から14年のあいだに約7億円を横領していた事件。架空の請求書を作成するなどして、会社の口座から自分の口座に資金を複数回送金させていた。
その全額をFX(外国為替証拠金取引)に注ぎ込んでいたが、社内監査が迫り、発覚は免れないと判断。自分から不正を会社に申告して懲戒解雇処分を受けている。
その後、伊藤忠商事は、業務上横領容疑で警視庁に告発する方針を固めて、この事件を発表した。元社員は警視庁に逮捕されている。
エリートがはまる罠
最近は私たちの会に寄せられる相談ではFXに関するものがトレンドのようになっています。
FXをギャンブルにカテゴライズしていいのかという問題は別にして、FXをギャンブルに変えてしまう人たちがいるのは間違いないことです。
FXに限らず、株や商品先物取引などでも同じです。
ギャンブルとしてFXなどをやる人がなぜ増えているのかといえば、とにかく手軽だからです。家にいてインターネット上で操作するだけで取引できます。パチンコのように店舗に行く必要がないので、人目を気にする必要もありません。
実際はギャンブルと変わらないようになっていながら、本人がそれを自覚しにくいのも問題です。
エグゼクティブな感覚を伴った資産運用のつもりで始めても、いつの間にか、そんな余裕はまったくなくなります。そして借金を積み重ね、なんとか一発当てなければならないという深みにはまっていきます。
ギャンブル以上にギャンブル性が高くなっていながら、本人はなお、それをギャンブルだとは意識しません。そういう状況がもっとも始末に負えないのです。