「私が前回この区間を日中に乗ったのは33年も前のことになる」
浜通り地方最大都市のいわきの街並みが流れ去る車窓は、5.4km先の次の草野駅を出たあたりから、徐々に農耕地へと変化していく。
次の四ツ倉では、上り列車が到着するまで5分ほど停車。常磐線は大部分が複線化されているが、起点の日暮里から219.2km離れたこの四ツ倉から北方の一部に単線区間が残っている。
四ツ倉の先でトンネルをくぐると、右前方に穏やかな太平洋の青い海が見えてくる。しばらく県道395号線を挟んで、海岸線を走る。道路沿いに民家やドライブインなどが点在している。震災の前はどんな海辺の景色だったか、私が前回この区間を日中に乗ったのは33年も前のことで、思い出せない。
海沿いに明治時代の廃トンネルが見えた
久ノ浜を出ると短いトンネルを続けて通過。そのトンネルに入るときと出るときに、線路の右側、つまり海側に廃棄された旧トンネルが口を開けているのが見える。この区間が開通した明治時代から、昭和42(1967)年に電化されるまで使用されていた旧線の跡である。
レンガ造りの重厚な雰囲気が、繁みの奥から車窓越しに伝わってくる。中には人や車が通れそうなトンネルも見える。次の末続を出ても、海側に廃トンネルが何度も現れては後方へと消えていく。
次の富岡までの区間の右手に、福島第二原発がある
8時12分、竜田に到着。ここから次の富岡までの区間の右手に、福島第二原子力発電所がある。福島第二原発は震災で大きな被害を受けたが、復旧作業が功を奏してかろうじてメルトダウン(炉心溶融)を免れ、安全に停止した。
とはいえ、運転再開はせず廃炉されることになっており、その一連の作業は令和46(2064)年度までかかるという。
竜田を出た列車は少し山側へと移ってから、トンネルを通過。再び外に出ると、右手の遠方、つまり海側に塔屋が見える。その方向に向かって、列車の上空を送電線が跨ぎ、海に向かって送電塔が連なっている。送電線の終点部分は見えないが、この送電線もいつか撤去されるのだろうか。
8時19分、富岡着。この駅は震災当時、大津波に襲われて駅舎が流失したうえ、福島第一原発から20km圏内の警戒区域に位置しているため、長らく営業再開できなかった。