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 現在の駅は、元の場所から約100m北へ移転していて、震災前の面影は全くない。駅の西側、つまり内陸側には住宅地が広がっているが、海側には見事に何もない。その光景が、すべてを押し流した津波の勢いを想起させる。

富岡駅は震災前にあった場所から約100m北の現在地に移転している。旧駅舎は津波で全壊した

 ここから先が、4年前に復旧したばかりの区間となる。ブルドーザーなどの工事用車両が沿線のあちこちに留置されていて、未だ復旧途上の地域であることが窺える。

ホームから階段を上がると電光掲示板に、空間線量の数字があった

夜ノ森駅で上り列車の到着を待つ

 8時28分に到着した夜ノ森で、「上り列車の到着を待つため10分ほど停車」との車内放送が流れる。通常ダイヤより30分以上遅れており、いわき始発時より遅延の幅が拡大している。

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ホームへ下りる階段の手前に線量計が設置されている(夜ノ森)

 乗降客の姿がないホームから階段を上がると、駅構内の空間線量率を示す電光掲示板に「毎時0.151マイクロシーベルト」と表示されている。日本の環境省は、除染が必要な空間放射線量を毎時0.23マイクロシーベルト以上と定めている。

 私は今回、携帯用の線量計を持参していたのだが、常磐線の電車内では、いわき出発時からずっと毎時0.05マイクロシーベルトと表示され続けている。いずれにせよ、列車で夜ノ森駅を訪れても放射線量に関する心配は無用であることが、両線量計の数値から実感できる。

旧駅舎を模した待合室(夜ノ森)

夜ノ森駅前には帰還困難区域のフェンスが残っていた

 駅の東口には、震災後に解体された旧駅舎を模した待合室が隣接しているが、駅前広場には人影が全くない。土蔵付きの古びた民家や商店、ゲームセンターだった建物の正面や外壁に沿って、人の立入りを制限するフェンスの一部が残されている。昨年3月31日まで、ここが帰還困難区域だった名残りである。

夜ノ森駅前。避難指示解除前の家屋立入り制限フェンスが今も残っている

 フェンスが残る駅前の一角のすぐ先は、かつて民家が建ち並んでいたと思われる沿道一帯が更地となっていて、荒涼としている。道路の信号機だけが定期的に変化するが、歩行者の姿は皆無だ。今は立入り可能とはいえ、不自然なまでの静けさが駅周辺の広範囲を覆っている。

建物がほとんどなく区画整理だけされた夜ノ森駅前。信号機だけが音もなく定期的に色を変えて動いている