目に見えない放射線量「慣れない外来者の私はどうしても緊張してしまう」
遅れていた上り列車の到着と入れ替わるように、8時37分、41分遅れで夜ノ森を発車。雑木林に視界を遮られがちで、海側は遠方を望みにくい。我が列車の上空を再び送電線が飛び越えて、右前方の空の彼方へ続いている。あの先に、おそらく福島第一原発があるはずだ。
携帯している私の線量計の数値が、にわかに上がり始めた。夜ノ森駅を出てから3分ほどで、表示されている数値が「0.05」から「0.12」に上昇。あくまで携帯用の簡易な機器の数値であるし、「0.23」未満の安全圏内であることには変わりない。車内でそんなことを気にしている乗客は誰もいないのだが、目に見えない放射線量が微増していく様子を数値で見ていると、慣れない外来者の私はどうしても緊張してしまう。
8時42分、大野に到着。地元客が数名、下車していく。ここから次の双葉までは震災前は複線だったのだが、復旧に際して旧上り線が舗装され、単線化された。その舗装道路がある右側、つまり海側へカーブして、列車は福島第一原発へと最接近する。
手元の線量計の数値は、瞬間的に「0.19」まで達した。線路際に立ちはだかるコンクリートの法面や雑木林などが車窓に展開し続けて、原発らしき構造物を車内から視認することは難しいが、この区間でも、第一原発方面へと続く送電線の下をくぐり抜ける。
双葉駅周辺は「時間が止まっている」かのようだった
上空を横断する送電線の方向が右後方へと変わると、線量計の表示も急速に低下して、次の双葉に到着したときにはもう「0.05」に戻っていた。駅の改札口に取り付けられている線量計の電光掲示板も「0.08」と、夜ノ森駅の半分くらいを示している。
ただ、4年前の復旧時に橋上化されて真新しさを感じる双葉駅舎とは対照的に、駅前から続く通りは震災で損壊した家屋が今もそのまま放置されていて、時間が止まっているかのような雰囲気を漂わせている。かつて野球部が甲子園に出場した双葉高校の荒れ果てた姿も、列車の車窓から見ることができる。