結局、救急車を呼ぶこともなく、入居者は自室に連れ戻されたという。だが翌朝には、腕がパンパンに腫れあがっていたそうだ。そのため、午前中に病院へ連れて行くことになり、そこで骨折をしていることが判明した。
「ちょうどコロナ禍で面会の制限をしていたので、家族の目もありませんでした。それをいいことに、夜中に部屋で転び、自分でベッドに戻ったみたいだと嘘の報告をして、事情を知る他の職員も、みんな知らないふりをしていました」(上田さん)
虐待というと、介護者が単独で行っているのだろうと勝手なイメージを抱いていた。ところが上田さんの証言を聞くと、虐待が組織的に行われていることがわかる。現場の介護職、その上司や施設の責任者までもが虐待に関与していたのだ。
利用者を足で蹴とばす
さらに、この施設で上田さんが目撃した虐待は他にもあるという。彼女は、若い男性介護士による暴力行為も目にしたことがあると明かしたのだ。
例えば――。おむついじりを防ぐための介護用つなぎ服というものがある。服の上下が繋がった形状の介護用つなぎ服は、やむを得ない場合を除いて原則使用が禁止されている。上田さんの施設ももちろん使用が禁止されていた。利用者の身体拘束に繋がるからだ。そうした運用のルールを無視して、若い男性介護士が許可なく利用者につなぎ服を着用させていたというのだ。
そうした行為自体、虐待にあたるが、この男性介護士は、さらに驚くべき暴挙に及んでいた。
上田さんが続ける。
「ある日の夜、その男性の介護士が薄暗い部屋で、利用者さんを冷たい床の上に寝かせていたんです。そして……」
男性介護士はつなぎ服を着せるのに手間取っており、イライラしていたのだろうか。横たわっている利用者を足で蹴とばしたというのだ。
「ちょっと、今、何したの!?」
偶然、その瞬間を目撃した上田さんは、驚きながらも男性介護士を問い詰めたが、逆にこう凄まれた。
「虐待じゃないよ。周りも、みんなわかっているから、何も言わない方がいいよ」