この少子高齢化社会で、介護ビジネスに金脈を見出す人々がいる。ノンフィクションライターの甚野博則さんによると「老人は歩くダイヤモンド」と呼ぶ業者までいたという。
甚野さんは自身の母親の介護をきっかけに、制度について一から調べ、全国の現場を訪ね歩いて知った「介護業界のリアル」を『実録ルポ 介護の裏』にまとめている。
ここでは本書より一部を抜粋。疎遠だった叔父の死を取り巻く状況に疑問を抱いた、ある女性のケースを紹介する。(全4回の4回目/最初から読む)
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「身元保証」ビジネスの謎
介護業界の規模は年々拡大し、そのビジネス形態も多様化している。中には悪徳業者も紛れ込み、高齢者を食い物にしている現実がある。
〈叔父の死後、不可解な出来事が起きています。〉
2023年1月、週刊文春編集部に1通のメールが届いた。メールの差出人は、北陸地方に住む篠田亜紀さん(仮名)。メールの概要は次の通りだった。
生前の叔父は中部地方の老人ホームに夫婦で暮らしていたが、妻に先立たれた。叔父には2人の兄弟がいるが、高齢ということもあり疎遠になっていた。身寄りのない叔父は2022年7月に賃貸マンションで息を引き取った。
篠田さんが叔父の死を知ることになるのは、それから半年近くが経った翌2023年1月だ。裁判所から一通の封書が届いたことがきっかけだった。封書の中には「遺言書検認期日通知書」と書かれた紙が入っており、叔父の遺言書の検認手続きをしてほしいと書かれていた。
篠田さんは叔父の相続人という立場だ。ところが裁判所からの資料には、「大崎郁子(仮名)」という聞いたこともない女性の名前が、遺言書検認の申立人として書かれていた。叔父が遺言書で財産を渡すと指定した相手のことだと、篠田さんはすぐにピンときた。
この大崎郁子とは一体誰なのか。叔父は、どういう経緯で亡くなったのか。なぜ叔父の死後に姪である自分に連絡がなく、今になって裁判所から連絡がきたのか。様々な疑問が一気に押し寄せ、理解が追いつかなかったという。
篠田さんが疑問に思った点は他にもある。なぜ叔父は自宅があるにもかかわらず、老人ホームを出て賃貸マンションで一人暮らしをしていたのか。誰が叔父の葬儀をして、火葬を済ませたのだろうか。遺骨はどこに埋葬されたのか。叔父の自宅や賃貸マンションの荷物は誰が整理したのか。
そして最も不可解だったのが、なぜ叔父は大崎郁子に財産を渡すという遺言書を書いたのかということだった。そもそも遺言書は、叔父が本当に書いたものだろうか。
まるで後妻業のよう――。編集部に届いたメールには、そんな言葉も書かれていた。