月に140万円もの請求が
篠田さんが独自に手に入れた複数の資料を見ると、不可解な点がいくつもある。
例えば、叔父が亡くなった月の請求書には、「葬儀代 22万円」と共に、葬儀会社名が記されていた。「永代供養代 50万円」という記載もある。近県に身寄りがないのに、本当に22万円の葬儀を行ったのか。そして、なぜ永代供養代が50万円もかかる寺に埋葬されたのだろうか。
さらに請求書からは、叔父の家にNPO法人がヘルパーを一名派遣し、生活支援をしていたことが読み取れる。日曜日以外の毎日18時から19時半まで、叔父の賃貸マンションで生活支援を行っていることになっていた(月曜日に限っては2時間)。よほど遠くから通っていたのか、交通費は毎日1696円も請求されている。
生活支援に関する請求書を辿っていくと、2022年7月の請求額は、なんと約110万円にものぼっていた。それだけではない。叔父は居宅介護支援事業所による介護サービスを利用していたようで、その額は月額約30万円にものぼっていた。2つの請求を合計すると、多い時は月に140万円も、介護にかかっていたことになる。
それらの費用は叔父の死後、NPO法人などに入金されている。だが、振込明細をよく見てみると、死んだはずの叔父が入金していることになっているのだ。振込明細の支店番号から、NPO法人の所在地のすぐ近くのATMを特定できたが、一体誰が入金を行ったのだろうか。
突然の「相続放棄」宣言
大崎の弁護士からは後に遺言書が送られてきたが、そこには確かにこう書かれていた。
〈大崎郁子(以下住所の記載)に対して遺言者が所有する全ての遺産を遺贈する。〉
遺言書の日付は2021年12月17日、叔父が亡くなる約7か月前のことだ。
大崎の弁護士は篠田さんと電話でこうやり取りしたという。
――(篠田さん)普通、赤の他人に財産を全て遺贈するという遺言書を作成させますか?
弁護士「いや、このNPO法人では入所者の方たちに遺言書を作成させて葬儀などをしていますよ」
――死亡後の後始末にかかる費用があるのなら、大崎郁子に全財産を遺贈するという遺言書を作成しなくても、NPO法人に叔父の預金を寄付するという契約を結べばいいだけではないですか?
弁護士「寄付という形にするとNPO法人に税金がかかるから大崎個人にしたのです。死亡後にかかった費用を精算して残りは親族に返します」
――死亡後に精算し、残りの預金を親族に返すつもりなら、遺言書を作成させなくてもいいのでは?
弁護士「じゃあ、通帳を送付しますよ」
弁護士の話は、その場しのぎの対応にしか聞こえなかった。大崎はNPO法人の職員として身の回りの世話をしていただけのはずなのに、なぜ遺産を大崎個人が受け取るのか。その疑問に対する明確な回答も得られることはなかった。