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 午後1時過ぎ、私は山田さんが運転する車の中から「15分後に少し中を見学させてもらえませんか」と施設に直接電話を入れてみた。すると電話口の女性は、「今からですか」と少々驚いた様子だったが、「大丈夫です。お待ちしています」と明るく答えてくれた。

異様に静かなホール

 目的の介護施設は、大きな畑の真横にあった。田園地帯にポツンと建つ殺風景な施設だった。建物の壁には大きく「住宅型有料老人ホーム」と書かれているが、いかにも安普請の2階建てアパートといった印象だ。広々とした駐車場に車を停めて、早速、入り口にいた女性職員に声をかけた。すると、電話での説明とは違い、対応した職員は「今、コロナの関係で、中まではお見せできないんですよ」と話すのだ。

「そうですか。でも先ほど電話で見学の約束をしたうえで、ここへ来たのですが……。この辺りの老人ホームを、いろいろと見学しようと思っていまして」

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 そう返すと、女性職員は「ちょっと待ってくださいね」と建物の奥へと消えた。暫くすると女性の責任者が現れて、「今日は特別に、中も見学していいですよ」と言った。一体、何が特別なのか。その説明はなかったが、私たち2人は案内役の別の女性職員に連れられて、いよいよ施設の中に入れてもらえることになったのだ。

 ちなみに、この施設の職員には名字を聞かれた以外、見学の目的などは一切聞かれることはなかった。

「まずは、2階のお部屋からご案内します」

 そう女性職員に促され、なぜか正面玄関ではなく、建物の裏手に回るよう言われた。人とすれ違えないほどの細道を歩かされると、案内されたのは職員用の小さな通用口だ。入り口でスリッパに履き替え、すぐ横にあるエレベーターに乗り2階へ上がった。

 エレベーターを降りると、中央に幅2メートル程の直線廊下があった。その両脇には利用者が暮らす約30の居室が並ぶ。居室のドアは引き戸だが、全ての戸が全開になったままで部屋の中が丸見えだ。室内に人は誰もいなかった。

「部屋の中、ちょっと見てもいいですか?」

 そう職員に聞いてみると、「どうぞ」と答えた。目の前の居室の中を覗いてみると、8畳ほどの部屋にシングルサイズの介護用ベッドと、小さなタンスが一つ。床に直置きされた大きな遺影がタンスに立てかけられていた。この部屋に住む女性の夫なのだろう。遺影の老紳士が微笑んでいたのが印象的だった。

 他の居室も順番に覗いて歩くと、小さな仏壇がある部屋や、衣類が散らかっている部屋など、生活感が漂っている。

 見学中、山田さんは女性職員にこうたずねた。

「お昼ご飯はもう終わったんですか?」

 女性職員が「そうですね」と頷くと、山田さんは続けた。

「誰も居室にいらっしゃらないですけど、お昼ご飯が終わって、入居者のみなさんは今、何をされているのですか?」

 一瞬、間があいて、女性職員はこう説明した。