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「2階の居室のドアが全部開いていましたよね。勝手に部屋の中に私たち見学者を入れてくれましたけど、普通はありえません。居室は入居者個人のプライベートな空間です。この施設では、入居者の方たちのプライバシーも守られていないのでしょう。また、この会社の系列は、壁に何も貼られていない殺風景な施設が多いんです。職員さんが積極的に催しを提案していれば、廊下の壁にイベントごとの記念写真や壁新聞、制作物などが、賑やかに貼り出されているものです」

 ケアマネとして気づいた点を次々と挙げながら、彼女は一言、こう呟いた。

「まるで養鶏場のニワトリの様です」

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 もらったばかりのパンフレットを開くと、月額基本料が11万円だと書かれている。室料、食事、おやつ、服薬管理などが含まれた価格だという。身元引受人や保証人もいらず、入居前の健康診断も不要だと書かれていた。

「この辺りの住宅型の老人ホームの相場が20万円前後ですから、それに比べたら確かに安いです。安普請の建物を次々に建て、利用者を集める。しかし介護スタッフが足りないため、どの系列施設も利用者を一括で管理するような介護を行っているのです」

 パンフレットを改めて眺めると、こう書かれている。

〈独りになっても一人じゃない〉

〈長生きを心から喜べる社会を創造する〉

 人手不足という施設の都合で、利用者をほとんど飼い殺しにしている「消極的介護」。これが虐待にあたるかは意見が分かれるかもしれない。ただ一つ言えるのは、利用者一人ひとりの人生や個性を無視した、“介護”とは名ばかりの介護施設が存在しているということだ。

 山田さんが続ける。

「私の担当する女性の利用者さんは、前任のケアマネからこの会社の施設を勧められました。若いケアマネで経験も少なく、想像力が働かなかったのでしょう。その利用者さんには軽い認知症がありますが、月に一度施設に伺ってお話をし、私が帰る頃になると毎回、『私も一緒に帰れる?』と聞いてくるんです。ある時は、荷物を鞄に詰めて職員にバスの時間を尋ねたこともあったそうです。きっと、この施設での暮らしが嫌なんです。でも部屋には鍵がかかり、外には出られません。彼女から『今日は帰れる?』と聞かれる度、胸が締め付けられる思いがします」

※写真はイメージ ©GYRO PHOTOGRAPHY/イメージマート

 山田さんは、この利用者の経済状況が許せば今後、別の会社の施設に入ることを勧めようと思うと語った。

 経営の効率化や介護スタッフの人手不足は、この施設のように、利用者の生きがいを蔑ろにすることにも繋がる。だが、残念なことに、介護職の人手不足が解消される見込みはない。厚労省は、2025年度に全国の介護職が約32万人も不足すると推計している。2040年度には、約69万人の介護職が不足するといい、この数字だけを見れば介護現場は既に崩壊しているといえるだろう。

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