1ページ目から読む
3/4ページ目

「今日はみなさん1階で寛いでいらっしゃると思いますよ。全員、2階にいないっていう日は珍しいんですけどね……」

 今日は特別な日であるかのような口ぶりだ。なぜ今日に限って入居者が誰一人部屋にいないのかの説明はなかった。

 続いて私たちはエレベーターで1階へと移動した。

ADVERTISEMENT

「あそこで、みなさん食事なども召し上がっています」

 職員が廊下の先を指さすと、奥に食堂兼ホールが見えた。正面玄関を入ってすぐの場所に位置する。最初に私たちが職員に話しかけた場所だ。ホールにはたくさんのお年寄りが座っているが、みんな異様に静かで無表情だった。昼食を終えて、うつむいている人、遠くをじっと見ている人ばかり。身体や手足を動かしている人が誰一人いないことに違和感を覚えた。すると職員が、「コロナの関係もありますし、今日の見学はここまでに」と言い、山田さんと私がホールに近づく間もなく、再び裏口へと誘導された。

 最後に女性職員は、こう言いながら施設のパンフレットと名刺を差し出した。

「今は満室ですので、もし入居をご希望される場合は、早めにご検討いただいた方がよいと思います」

「まるで養鶏場のニワトリ」

 施設を後にして車内に戻ると、山田さんは開口一番こう言った。

「一見すると、よさそうな施設でしたよね」

 確かに、女性職員の愛想もよく、悪い印象は持たなかった。ところがこの後、山田さんはこう続けたのだ。

「正面玄関ではなく、私たちを裏口から入れたのは、ホールでの様子を見せないためですよ。施錠されたホールにお年寄りを閉じ込めて、一日中何もせずただボーッと過ごさせているんです」

 言われてみれば、そう見える。身体や手足が動いていないのは、寛いでいるからではなかったのだ。通常、デイサービスでは、体操やクイズ、手芸や工作など、さまざまなレクリエーションを行うはずだ。

「利用者さんたちは、リハビリやレクをするわけでもありません。毎日、朝8時から夕方6時まで一人残らずホールに集められます。職員が話しかける様子もほぼ無かったですよね。それでもデイサービスを利用したことになっているんです」(山田さん)

 こうした対応は、この会社だけのことなのだろうか。別の介護施設管理者が、次のように説明する。

「介護の効率化を重視するあまり、利用者を一か所で集中管理する施設があるとの話はよく聞きます。人手不足なのでしょう。見守りはしているわけですし、交代で入浴介助も行う。最低限のことをしていれば、デイサービスを利用したことになり、介護保険を請求できますからね」

 山田さんが話を続ける。