世界の半導体市場をリードしている台湾の半導体メーカー「TSMC」。2024年の熊本工場(JASM)始動と第2工場の建設決定で、日本での注目も高まっている。なぜTSMCは世界的な半導体企業として、成長することができたのだろうか?
ここでは、TSMCを創業時から取材し続けている台湾人ジャーナリスト・林宏文氏の著書『TSMC 世界を動かすヒミツ』(CCCメディアハウス)より一部を抜粋。TSMCの今後について、林氏はどのように見立てているのか――。(全2回の2回目/1回目から続く)
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TSMC創始者モリス・チャン…「あと20年は問題ない」
2011年にアップル創始者のスティーブ・ジョブズが世を去ったあと、ティム・クックがCEOに就任したときのことをまだ覚えておいでだろう。あのとき多くの人が、ジョブズを亡くしたアップルは、顧客の心をあと何年掴み続けられるだろうかと思ったはずだ。
2018年にTSMC創始者のモリス・チャン(張忠謀〈ちょうちゅうぼう〉)が引退してマーク・リュウ(劉德音〈りゅうとくおん〉)とシーシー・ウェイ(魏哲家〈ぎてつか〉)が後継者に立ったとき、人々の頭に同じような疑問が浮かんだはずだ。つまり「モリス・チャンが抜けたTSMCは、あとどれくらい先行していられるのだろう」と。
いい質問だ。ジョブズが物故してからもアップルはハイレベルな成長を維持し、クックが会社を引き継いだときの時価総額は3460億ドルだったが、2022年には3兆ドルを突破して、8.5倍近く成長した。ジョブズ時代のイノベーションパワーが削がれたと感じている人もいるものの、アップルは十数年経った今でも顧客に愛され続けている。
TSMCはどうだろうか。引退したモリス・チャンがインタビューに応じて、TSMCの未来について話しているのを目にしたことがある。モリス・チャンは「これからの20年もTSMCは成長を続けるはずだから問題ない。だが、その次の50年となると、TSMCは存続しているに違いないが、成長を維持しているかどうかは分からない」と言った。
純利益世界第4位、高成長を続けるTSMC
モリス・チャンの言った「あと20年は問題ない」という言葉には私も同意する。だがこのことを考える前に、まずは2022年の世界の大手ハイテク企業の財務報告を見てみよう。
この年は景気が世界的に低迷し、欧米では大規模なリストラの潮流が起き、多くの企業が業績不振に陥ったが、TSMCの第4四半期の純利益は2959億新台湾ドル、つまり100億ドルに迫り、前年比77.84%増という高成長を見せた。各社をランキングするとTSMCはアップル(約300億ドル)、マイクロソフト(約164億ドル)、アルファベット(約136億ドル)に次いで世界第4位となった。いっぽうで、アマゾン(2億7800万ドル)やメタ(46億5000万ドル)、テスラ(37億ドル)といった有名企業に対しては大いに水をあけた。