時価総額で見ると、TSMCは現在、世界ランキングで第10位から12位のあたりに位置し、純利益は第4位に食い込んでいる。また年間の純利益の総額が初めて1兆100億新台湾ドルを超え、前年比70.4%増となった。
同業他社はというと、インテルは第4四半期が6億6400万ドルの赤字となり、サムスン電子は純利益約18億ドル、AMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)は純利益2100万ドル、エヌビディアは純利益14億5600万ドル、中芯国際集成電路製造(SMIC)は純利益3億8600万ドルで、やはりTSMCと大きく差がついた。
企業の成長と収益を比較した場合、TSMCは高成長を維持しているだけでなく、半導体業界で主導的立場も保っており、業界の景気が陰った2022年と2023年も、TSMCの収益と成長の勢いは影響を受けなかった。長期的に見ても、モリス・チャンが引退した2018年から現在までの5年間で、TSMCの収益は過去最高を更新し続けている。
モリス・チャンがTSMCの未来はあと20年は大丈夫だろうと言う理由を、3つの角度から分析してみたい。1つはTSMCの米国での投資プロジェクト、2つ目はムーアの法則のボトルネック、3つ目がAI時代のイネーブラー(力を与える人)としてのTSMCの役割である。
米国での投資が足かせにならない理由
まず、TSMCの米国工場建設プロジェクトが、TSMCの今後の成長の足かせになることはないのだろうか。TSMCの業績にどんな挑戦をもたらすのか。このテーマは重要だ。というのも、市場はTSMCの米国投資プロジェクトに対し多くの疑問を抱いており、先端技術の流出を危ぶむ声もあれば、米国での高コストがTSMCの業績の負担になるのでは、という声もあるからだ。
私自身は、TSMCは確かに米国工場の運営で大きな挑戦を強いられるうえ、経営管理能力を高めるうえで困難にもぶち当たるだろうが、大局に関わるマイナス要素にはならないと楽観的に考えている。というのは、米国工場のコスト高という問題は、TSMCだけでなくインテルやサムスンといった、米国にウエハー工場を建設する競合他社にも共通することだからだ。TSMCのビジネスパフォーマンスは世界最高、粗利率は6割に達しているという点から考えても、仮に米国工場のせいで粗利率が下がったとしても、TSMCは他の企業より持ちこたえる力があるはずだ。