さらに、TSMCが過去にこれほどの成功を収めてこられたのは、ポストムーア時代の課題のなかでさまざまな問題解決策を打ち出して、困難を乗り越えながらプロセス技術を進化させ、先端パッケージング技術を向上させるための革新的手段を見つけ出して、チップの高性能化と低価格化を継続させる力を持っていたからだ。これからの20年でもムーアの法則というジレンマに何度も見舞われるだろうが、TSMCが大きなミスを犯さない限り、次の20年の繁栄も難しくはないだろう。

ChatGPTの出現でさらに巨大なビジネスチャンス

 最後にもう1つ、半導体市場の成長は、末端市場にキラーアプリがどれだけ登場するかにかかっている。コンピューターやスマートフォンは半導体製品を大量に消耗してくれるキラーアプリだったが、現在では5G、AI、電気自動車、自動運転車もキラーアプリである。特にChatGPTが出現したことで、AIにとって最も具体的なイノベーション市場が形成されたため、半導体業界にさらに巨大なビジネスチャンスがやってくるだろう。

 ChatGPTが突如として現れたことで、グラフィックス用チップ(GPU、画像処理専用プロセッサ)を生産するエヌビディアやAMDなどが直接的な恩恵を受けたが、最終的に最大の受益者となったのはTSMCだ。エヌビディアやAMDがTSMCに発注してくれたおかげもあったが、それよりも大きかったのは、マイクロソフトとChatGPTをリリースしたオープンAIが提携して、Googleの独占状態にある検索エンジン分野の商機を奪い、同時にメタ広告やアマゾン広告といった大手の広告分野に割って入ったことだ。つまりこれから、インターネット企業の間で新たな戦局が始まることになる。

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 ChatGPTからの挑戦状に答えるように、Googleは生成AIのGoogleBard(グーグルバード)を発表し、メタは大規模言語モデルLLaMA(ラマ)をリリースした。こうした新製品はどれも、外部調達するか自社設計するかしてチップを確保する必要がある。よって、TSMCの半導体プロセスと技術によって1つのプラットフォームが確立されると、チップ設計専業メーカーも、マイクロソフトやGoogleといった大企業も、アップルのようにAI用チップを自社設計して生産しなければならなくなった。彼らはみな、TSMCに発注しなければ戦力を増強できない。AI技術が百花繚乱に咲き乱れる環境では、より多くの半導体を使う必要があるため、武器のサプライヤーを演じるTSMCが最大の恩恵を受けることになる。