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 別の角度から見ると、TSMCは設立から一貫してファウンドリーの先端プロセスを通じて、AMD、インテル、エヌビディア、アップル、そしてメディアテック(聯発〈れんはつ〉科技)、クアルコム、ブロードコムといった企業にハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)能力を提供してきた。

 そして今、ここにさらにアマゾンやメタ、アルファベットといったインターネット大手の数々が加わったのである。彼らはチップを自社設計し、TSMCを通じて先端プロセス技術をリリースすることになる。テクノロジープラットフォームをリリースする過程でも、TSMCが最大の勝者となる[TSMCが受託製造に使用する先端プロセス技術は、それ自体がテクノロジープラットフォームになっている。顧客はこのプラットフォームで、自社が設計した製品の機能を最大にしたり、コストをさらに下げたりできる。TSMCも自社のテクノロジープラットフォームを市場にリリースし、全ての消費者が恩恵を受けられるようにしている]。

写真はイメージです ©アフロ

TSMCの唯一の敵は、TSMC自身

 モリス・チャンは以前に、TSMCの30数年間を3つの時期に分けている。最初の10年は米国市場の開拓に費やした時期で、次の10年は主にGPUなどのPCコンポーネントを提供するエヌビディアのような顧客に力を注いだ時期、その次の10年はクアルコム、ブロードコム、アップル等の企業のモバイル機器に力を注いだ時期である。

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 マネジメント研究者で経営コンサルタントのジム・コリンズは、著書『ビジョナリー・カンパニー』シリーズ(山岡洋一訳、日経BP社)のなかで「フライホイール・エフェクト」という組織変革の概念を提唱している。彼は変革を「フライホイール(弾み車)」にたとえて、最初にフライホイールを動かすときには大きな力が必要だが、同じ方向に回転し続けると時間の経過とともに運動エネルギーが蓄積されて、フライホイールがより速く回るようになると言った。

 モリス・チャンがTSMCのために築いた基礎は、大きな運動エネルギーを蓄えて高速回転するフライホイールになったため、TSMCがあと20年、顧客から求め続けられる企業でいることに何の懸念もないと私は考えている。TSMCの唯一の敵は、TSMC自身だ。しかし、従業員が天狗になり始めたり進歩を止めたりしなければ、競合他社に敗北することはないだろう。よって私は「TSMCがあと20年、トップを走り続けるのは、難しいことではないはずだ」というモリス・チャンの言葉に同意する。