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あのとき、遠藤周作の『砂の城』に救われた。『万葉と沙羅』著者・中江有里さんインタビュー

青春小説『万葉と沙羅』文庫刊行記念 #3

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書, 教育, 社会

note

『万葉と沙羅』では、私自身がこれまで偶然選んだ本もあるし、「あ、これ読んでみたい」と思って選んだ本もたくさん入っているんですけれども、こういった本もあるよという参考にしてもらえたら嬉しいな。芹沢光治良の『緑の校庭』や宮沢賢治『銀河鉄道の夜』、山田詠美『ぼくは勉強ができない』など、おすすめの本ばかりです。

 沙羅も万葉も、苦しいところを乗り越えようとしている。悩みのない人なんていない。でも、苦しいとかつらいって、あきらめずに生きている証拠なんです。あきらめてたら、そんなこと感じないから。

写真・杉山秀樹(文藝春秋写真部)

実は、まわり道は一番近いのだ。

 私自身がいろんなことでまわり道をしてきたと思っています。高校をたくさん通ったこともそうだし、その他にも、人生そのものがまわり道をしているって。後から考えると、もっとこっちからこういけば良かったのに、全然そういうふうに来られなかったなぁってことばかりで。でも、歩んできた道のようにしか来られなかったんだよねっていう、そういう自分も分かるんです。この生き方しかできなかった。

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 でもまぁ、最終的にはまわり道するっていうことが、自分の生き方そのものなんですよね。小説を書くこともそうですけれども、書き始めるときにスタートからゴールまで一番合理的にまっすぐ行った話が面白いのかっていったら、ちっとも面白くないだろうなって思う。だから、A地点からB地点、B地点からC地点に行くときに、いかにまわり道をしてどのようにしてそこにたどり着くか、ということを考えます。

 読書で一番大事だと思うもの――私が読みたいものは、「過程」なんです。もちろん人生も本も結末にたどり着くのは大変なことだけれども、「過程」の中で自分がいかに成長していくか、何を身に着けていくか、ということが、実は生きるってことの醍醐味だと思っているから。それは小説を書くことも全く同じだし、あと、まわり道してきたから、いろんな景色を見てこられたんですよ、ほんとに。

万葉と沙羅 (文春文庫 な 89-1)

万葉と沙羅 (文春文庫 な 89-1)

中江 有里

文藝春秋

2024年5月8日 発売

あのとき、遠藤周作の『砂の城』に救われた。『万葉と沙羅』著者・中江有里さんインタビュー

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