田舎暮らしにぼんやりとした憧れを抱き、漫画連載の仕事を機に田舎へ移住した漫画家の市橋俊介さん(49)。理想の土地を探すべく、極寒の高地から、限界集落、競売で落札した古民家と、5回もの引っ越しを重ねてきた。家探しやゼロから始める農業、地元民や移住者との出会いまで、地方移住は予想外の連続だったという。(全2回の前編/続きを読む)
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「田舎暮らしできたら」とぼんやり考えていた
――『ぼっちぼち村』や『ぼっち村』の連載をきっかけに2013年から田舎暮らしに挑戦した市橋さんですが、その経緯を改めて聞かせてください。
市橋さん(以下、市橋)もともと2011年から「週刊SPA!」(以下、SPA!)で他の漫画家さんと合同連載の形で別の漫画を描いていたのですが、色々あって、私単独の漫画を立ち上げることになったのがきっかけです。
当時の私は東京郊外に住んでいたのですが、暇を見つけては富士山の近くに遊びに行ったりしていたんです。いつか、富士山の近くの古民家なんかで田舎暮らしできたらいいなとぼんやり考えていたら、「じゃあ、それを漫画にしましょう」みたいな感じでスタートしました。
「ひとりで村に移住……、ぼっち村?」とデスクがつぶやいたら編集長が爆笑して、「『DASH村』っぽいし、いいじゃん!」というノリで始まった連載です。なので、本当に田舎暮らし始めるの? って感じで、どこまで本気で、いつまで田舎暮らしをするかもまったく考えていませんでした。結局、「SPA!」の連載は終わってしまいましたが。
競売で落札した“トカイナカ物件”に暮らす
――連載が終わったとはいえ、現在でも奥さんと子ども、そして犬1匹と地方に住んでいらっしゃるんですよね。
市橋 連載が終わる直前に競売で落札した、田畑に囲まれた地方都市郊外のいわゆる“トカイナカ”物件に今も暮らしています。DIYもして手を入れているので、気に入ってます。ただ、家主である私は連載がないので、たまにバイトをしながら、時々依頼されるイラストを描いて、子育てをして……。ほぼ無職なのでヤバいです!
――漫画では農業での奮闘ぶりも印象的です。珍しい作物に手を出すも、育たない、売れないなどの失敗を繰り返しているのがなんとも悲哀に満ちていて。
市橋 農作物の選定は移住に比べればハードルも低いので、「漫画のネタになるかな」という不純な動機もありました。あとは、単純に面白そうだなという思い付きで。でも、珍しい作物に限らず、農業は本当に大変でしたね。