市橋 競売物件は狙った土地に希望する条件の物件が、そのタイミングに出ることは稀です。私の場合、漫画のネタの意味合いもあったので、全国各地で幅広く探せましたけど。また入札額によっては落札できるとも限りませんし、仮に落札できても、占有者との明け渡し交渉や裁判の手続きなどが膨大で、私のようにほぼ無職のような人間でなければ、時間や労力的にハードルは高いですね。
畑や田んぼを途中でやめるとものすごく嫌われる
――現在、地方では空き家の多さが問題視されることもあります。そういう中でも、空き家を借りることは難しかったでしょうか。
市橋 ドライブで立ち寄って、各地に転がっている無数の空き家を見て回りました。地元の人に突撃して所有者を探し、無償も含めて借りた事もあるのですが、相当の覚悟と忍耐力がないと難しいです。ほぼほぼ話を聞いてもらえませんし、下手をすると怒られます。まあ、勝手に集落に入ってこられてピンポンされて、「あそこの空き家を貸してください」と言われるわけですから、警戒されるのも無理はありません。
持ち主としても、荷物の整理やいろんな手続きが面倒くさいから、空き家バンクに登録もしていないケースも多いんです。でも、なかには「いっそのこと買ってくれ」という人もいました。家だけじゃなくて、山もすすめられましたよ。
――山ですか! 最近だとキャンプブームで山を買う人も多いですよね。
市橋 「小さな山を50万で買ってほしい」と言われたことがあります。また山でキノコを育てていた農家からは、廃業するから後継者にならないかと山の購入をすすめられました。「2年間の研修が条件、その後年間で数百万円の売り上げが見込めるキノコ山を1000万で!」と。漫画のネタになりそうでしたが、管理が大変そうだったし、そんなお金もないのでさすがに断りました(笑)。
価格のこともありましたが、やっぱり中途半端な気持ちでは農業は成功しませんし、畑や田んぼを途中でやめると住民からものすごく嫌われることがあるんですよ。実際、嫌がらせで、畑を放棄した人の家に向かって、光が反射するように太陽光パネルが建てられていたこともありましたし……。
――聞けば聞くほど、縁もゆかりもない土地に移住するのは大変そうなのですが、市橋さんは今後、また引っ越す予定はあるのでしょうか。
市橋 今、うちの家計を支えてくれている妻は今の場所で仕事を見つけましたし、子どもの教育や進学を考えると、超田舎に引っ越すつもりはありません。お金もないので東京にも戻れませんし……。
とはいえ、個人的には自然に囲まれたポツンと一軒家に暮らしてみたい思いもあります。妻子に捨てられたら、一人で人里離れた場所に隠居するかもしれません!