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「畑を途中でやめると、住民から嫌われることも…」地方移住5回の49歳男性が語る、“田舎暮らし”で心が折れた瞬間

漫画家・市橋俊介さんインタビュー#1

2024/07/06
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農業で生計を立てることはとても無理だった

市橋 特に草刈りなんか、年に何回するのか分からないですが、漫画のネタにはできない同じ作業を何度も地道に続けるのが農業です。草を刈り、むしり、土を耕し、肥料を入れ、畝を立て、播種育苗をし、水をやり……。

 延々とその作業の繰り返しで、そこに台風、大雨、病気、害獣、盗難などの自然の厳しさも襲ってきます。大切に育てた作物が、自然災害によって全部ダメになると心が折れますよ。

草を刈る様子(市橋さん提供)
夫婦で育てた畑(市橋さん提供)

 始めた頃は少しくらいは稼げるだろうと思っていましたが、生計を立てることはとても無理でしたね。直売所では地元の菜園家やリタイア組が、趣味で育てた野菜を安値で売っているので。

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珍しい作物の栽培で“一発逆転”を狙うも…

――そこで勝負するのは難しかったということですね。

市橋 そうです。「タバコ代が稼げればいいんだよ」みたいなおじさんが、利益なんて考えずに出品していますからね。そんな捨て値で売られたら勝負になりません。なので、一発逆転を目指して高く売れそうな誰も作っていない超激辛唐辛子などを育てたりしたんですが、珍しい物は逆に売れませんでした。

 また、都会から来て就農した移住者もいたのですが、果樹などの贈答品も販路をしっかり作れないと、やはり厳しくなって辞めてしまうことも少なくないです。

市橋さん夫婦の畑(市橋さん提供)

――巷では「儲かる農業」など謳われることもありますが、現実は非常に厳しいと。

市橋 新規就農して成功している方は、私からすると超人です! 地域おこしで、自治体が後押ししてある作物を特産品に指定して育てても、結局はそこまで売れず、撤退するようなケースも多いです。中には補助金目当ての人もいたりしますが、そうではなく自分で田畑を耕作して生活できる方は本当に素晴らしく尊敬します。私はその道が見つからなかったので、せめて消費者としては多少高くても国産の野菜を買って、農業を支えたいと思っています。

――作中では、デザイナーや音楽家、登山家など個性的な移住者が登場しますが、なかでも印象的な出会いはなんでしたか。

市橋 某政治塾出身の女子大生が地元の協力でお店を出して、開店後3カ月でいなくなったことがありましたね。地域おこし協力隊として全国を転々としている入れ墨だらけの若者がいたことも。