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「原因不明の病気が分かって…」移住を5回繰り返した漫画家が、“田舎の一軒家”購入に踏み切ったワケ

漫画家・市橋俊介さんインタビュー#2

2024/07/06
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「少年ジャンプ」すら読んでこなかった自分が、初めて面白いと思った漫画

市橋 フリーター時代に入り浸っていた美大仲間の家に、大量の漫画があったんです。そこで、本格的に漫画に触れて、楳図かずおさんや高野文子さん、つげ義春さん、いましろたかしさんなどの作品を読みました。それまで、周りが夢中になっている「少年ジャンプ」の漫画すらまともに読んでこなかったのですが、とても面白く感じたんですよね。でも「漫画家になるぞ!」と一念発起したとかではなくて。

※写真はイメージ ©AFLO

 ある日、いつものようにダラダラと漫画を読んでいたら、とある雑誌に新人賞の募集欄があり、その賞金に惹かれて漫画を描き始めました。ほんとに不純な動機でしたね(笑)。

 でも、私は絵が得意ではなかったので、自分は原作で美大仲間に作画をさせようと考えました。当たり前ですが、そんな私と組むメリットは相手にありませんし、結局作品はできなかったですね。それで、しぶしぶ自分で描いて新人賞に投稿してみたんです。今振り返っても自分のダメ人間ぶりが嫌になります……。

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“田舎暮らし”での日々を描いた、市橋さんの最新刊『ぼっちぼち村』より(農文協)

――人生で最初の漫画はどんな出来だったんですか。

市橋 これも例のごとく、何も考えずに動き出したんです。描き始めたのはいいものの、原稿用紙をプロ・投稿用ではなく、ひと回りサイズが小さい同人用を使っていたり、丸ペンを普通のペン軸に刺してグラつきながら描いたり、青いインクで描いたり……。そんな初歩的な間違いを美大仲間に指摘されるまで気づかなかったんです。

 それから、なんとか作品を書いてアポ無しで出版社に持ち込みましたが、ステンドグラスみたいに細かくコマを割ったりしてめちゃくちゃだったので「美大生的だね」なんて言われました。一応原稿は預かってもらえることになりましたが、「もう受賞の芽がないな」と思ってその時点でやる気を失っていました。

 ただ、なぜか奇跡的にその作品が入選して。その後も、少し大きな賞をいただいたりしたんですが、デビューと同時にその雑誌の休刊が決まるなど色々不運が重なってしまいました。