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「僕はただ枯れて朽ち果てていくんじゃなくて、再生しながら抗っていきたい」草彅剛が“怒れる武士”を演じて切り開いた「役者・アイドルとしての新境地」

映画『碁盤斬り』草彅剛さんインタビュー #2

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草彅剛入魂の“手で語る葛藤”

―― なかでも忘れられない打ち方がありました。序盤、格之進は源兵衛と碁を打ちながら、つましくも穏やかな日々を過ごします。ところがいつものように手合わせしている最中、かつて自分の下で働いていた梶木左門が現れ、妻の死の真相、そして仇の名を知らされる。その動揺、怒りを、台詞ではなく「囲碁を打つ手」で語っていました。

草彅 おおっ、私の思うつぼですねえ(笑)。気持ちいいところを掻いてくれますねぇ、そこはぜひ注目してほしくて。やっぱりね、すごく難しかったんですよ。けっして声を荒らげるわけじゃないし、碁を打っているなかで葛藤を見せないといけない。今まですごく冷静だった格之進が一大事になることがあって、それが碁に出て、源兵衛に悟られてしまう。物語の展開がガラッと変わるシーンなので、ものすごくこだわりました。非常にテクニカルな心情を作ってね……私はね、カシコイからね(笑)。

―― 手だけでこんなに語れるのかと驚きました。碁に向き合うときだけは、自分は嘘をつきたくないと言っていたのに、感情の震えが何気ない仕草に出てしまう。

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草彅 そうなんですよ。囲碁が人柄を表すという意味でも、本当に大事な局面でした。この映画は碁を打っているとても静かな場面から始まって、徐々に激しさを増していきます。白石監督も初めての時代劇とあって、エンジンのかけ方を細かく調整なさっていました。僕も序盤が静かで美しければ美しいほど、後半に響いてくるんじゃないかなと思って。

 源兵衛さんと囲碁で友情を築き上げていく過程、碁を通じてその人を見つめる姿を、とても丁寧に撮っていただきました。画面にも感情の流れがとてもよく表れていましたよね。いいシーンで、僕自身すごく気に入っています。

「TikTokで囲碁ブーム、来ちゃいますよ!」

―― 源兵衛の打ち方も、格之進と手合わせするうちにどんどん優しく、穏やかに変わっていきます。

草彅 面白いよね。人がね、見える。作戦もそうだけど、戦いの中にその人が立ち上がってくるんだろうね。大胆な手なのか、ちょっと姑息なのか、ジンワリいくのか。性格が全部、碁に表れるんだよね。碁石の白と黒も、人間の表と裏を象徴している気がする。

 作中で登場する碁盤、実は江戸時代に使われていたものなんですよ。碁石も今のものと違って、膨らみがなくてぺったりしている。なかなかお借りできない貴重なものです。やっぱり歴史を重ねてきたオーラが出ているというか、映画で描かれた人生、この碁盤で実際に打っていた、遠い時代の人々の人生が表れている気がして……。深いですよね。

©2024「碁盤斬り」製作委員会

―― 映画を拝見して「碁ってものすごくかっこいいな」と感じました。

草彅 でしょう? これはね、新しいムーブメントを起こしちゃいますよ。うん、来ますよ、囲碁! 将棋ブームですけど、囲碁も来ちゃうね。映えるもん、TikTokで。「渋い」と思われがちだけど、一周二周まわってね。

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