「あんな顔つき、体つきになりたくて…」
―― 役者としては、また新境地を開いていかれたい?
草彅 そうですね、せっかくやるならね。でもおかげさまで、やったことのない役ばかりいただいて。極端なことを言うと、人って毎日微妙にどこかが違うと思うんですよ。顔とかも気持ちとかも。それに順応して生きていれば、新しい役が舞い降りてきて演じられるんじゃないかなって自分では思っています。
―― これからも様々な顔を見せてくださりそうで楽しみです。役ではなく、ご自身としては今後、人格や佇まいも含めてどんな「顔」になっていきたいですか。
草彅 老いていくのはもう誰しもの運命で抗えない。でも僕はただ枯れて朽ち果てていくんじゃなくて、自分なりに楽しみながら、再生しながら抗っていきたい。僕の好きなヴィンテージジーンズを見ていると、すごくそう思うの。シワとか汚れとか傷とかあるんだけど、その中に輝きがあって、めちゃくちゃカッコいい。ギターもガシャガシャに弾かれたやつって、傷がいっぱいついてるし、乾燥してパキパキになっていて軽いんだよね。でもそんな体で鳴らす音は、いぶし銀のような趣がある。襤褸の美学を見せてくれた格之進と同じでさ。だから最終的には、自分自身がヴィンテージになるような顔つき、体つきになっていきたい。
―― 重ねてきたもの全部が、たとえ傷すらも輝きに変わるぐらい。
草彅 うん。そういう人間になりたい。なれたらいいですけどね。
―― その過程や到達点をファンに見せられたら素敵ですね。
草彅 そうありたいですよね。やっぱり演じることって、役があれば、生きてさえいれば何歳でもできるじゃないですか。大変でもあり強みだと思うんですよ。70、80歳のヴィンテージになった僕を見せられたら最高だよね。
アイドルとして「再生」し続けたい
―― 以前「週刊文春」(2023年12月21日号)で朝ドラ『ブギウギ』の秘話を伺った際、「僕はやっぱりアイドルだからね」とおっしゃっていました。その意識は今後も軸になり続けていきますか。
草彅 そうですね。「アイドルとしての自分」は僕の根底にある、小さいときからやってきたベースなので。幸せなことに今もひと月に1回、ファンミーティングと題して大きなステージを用意していただいていますから。
―― 10代、20代とごく若い時期で卒業されるアイドルも多いなか、これだけ長い期間にわたってずっと輝いていてくださるのは、ファンの方にとって大きな希望だと思います。
草彅 僕、アイドルだからね! 今でもバリバリ歌って踊ってますからね! まじだよ、うん!結構疲れますけどねぇ。いや、そこも抗っているからね。ただ単に歌い終わるわけにはいかないんですよ。
―― 先ほどおっしゃっていたように、アイドルとしても再生し続け、抗いながら「ヴィンテージ」な存在へと向かっていく。
草彅 そうなのよ! キーも落としてないですからね。抗ってるの! いつかは落としていきますけど、その時はその時でまた「再生」の方法を考えます。ステージもぜひ観てほしいです。ファンミーティング、楽しいんですよ。本当にね、ファンの皆さんもいい人ばっかりで。エネルギーのキャッチボールをしているので。
―― 草彅さんとファンの皆さん、互いに放つ光を反射し合っているんですね。
草彅 あっ、それいいですね!うん、本当にそうだと思う。ファンの方がいての僕なので。原動力です。
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「週刊文春」5月23日号(2024年5月16日発売)では、カラーグラビア4ページで「草彅剛 “怒り”の肖像」を特集。碁石の「白」と「黒」になぞらえた柔らかな笑顔と力強い眼差しなど、撮りおろしカット3点を掲載している。怒りのエネルギーを燃やしながら新境地に挑み続ける草彅の、まばゆい「今」をぜひその目で確かめてほしい。
草彅剛(くさなぎ・つよし)
1974年7月9日生まれ。1991年CDデビュー。主な出演作は、『黄泉がえり』(03/塩田明彦監督)、『日本沈没』(06/樋口真嗣監督)、『あなたへ』(12/降旗康男監督)、またテレビドラマは「僕と彼女と彼女の生きる道」(04/CX)、「任侠ヘルパー」(09/CX)、大河ドラマ「青天を衝け」(21/NHK)など、多数作品に出演を果たす。2017年には「新しい地図」を立ち上げ、その後自身主演の『光へ、航る』(太田光監督)を収めたオムニバス映画『クソ野郎と美しき世界』(18)は2週間限定公開の中、28万人以上を動員し、大ヒット。また、「アルトゥロ・ウイの興隆」(作:ベルトルト・ブレヒト/演出:白井晃/2020、2021~22年に再演)、「シラの恋文」(作:北村想/演出:寺十吾/23~24年)など舞台作品にも出演。その他出演作に、西加奈子原作の『まく子』(19/鶴岡慧子監督)、『台風家族』(19/市井昌秀監督)、第44回日本アカデミー賞最優秀作品賞・最優秀主演男優賞に輝いた『ミッドナイトスワン』(20/内田英治監督)、『サバカン SABAKAN』(22/金沢知樹監督)などがある。