死刑囚の告発から明らかになる殺人事件の真相と、人間の心の闇を描いた『凶悪』(13年)で数々の映画賞を受賞。
以降、『日本で一番悪い奴ら』(16年)、『孤狼の血』(18年)など、アウトサイダーを描いた多くのエンターテインメント作品を送り出してきた白石和彌監督が、新作『碁盤斬り』で挑んだのは、古典落語を原典とする時代劇だった。
代名詞とも言えるピカレスクな作風とは真逆の、清廉潔白な貧乏侍を主人公とする物語に込めた思惑を白石監督に聞いた。
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「将来は時代劇を撮りたい」と言い続けてきた
──白石監督が時代劇を手掛けるとは、意外だと感じました。実際にご自身にとっても初めての挑戦ですよね。
白石 『凶悪』で注目していただいたときから、インタビューのたび「将来は時代劇を撮りたい」と言い続けてきたんです。言霊(ことだま)っていうわけじゃないけど、どこかのプロデューサーが興味を持ってくれないかと思って。だけど誰からも声がかからなくて、10年経って、ようやく実現できたなって感じです。
──だいぶ時間がかかりましたね(笑)。作り手として、時代劇の魅力はどこにあるのでしょうか。
白石 そもそもぼくは、いち映画ファンとして純粋に時代劇が好きだったんです。
理不尽な悲劇が印象的な小林正樹監督の『上意討ち 拝領妻始末』(67年)や、集団抗争時代劇の傑作、工藤栄一監督の『十三人の刺客』(63年)、もちろん黒澤作品など、観られるものはだいたい観て来ました。
だけど時代劇ってやっぱりハードルが高いんですよ。セットや衣装にかける予算がぐっと上がったりして。
草彅剛が演じるのなら復讐もありだ!
──『碁盤斬り』ではさらに落語という要素が入っていますが、監督はもともと落語に興味をお持ちだったのですか。
白石 今回の企画に関しては『凪待ち』(19年)でもご一緒した脚本家の加藤正人さんが、誰に頼まれるでもなくプロットを書いて、「白石くん、ちょっと読んでくれない」なんていう流れで。大の囲碁ファンの加藤さんが、「柳田格之進」(別名・碁盤割)という落語に出会ったのがきっかけです。