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旦那さんの〝プライド〟
しかし、入院して日が経つにつれ、私たちの考えも変化していきました。毎日のように面会に来て、奥さんの手を優しく撫でる姿、看護師に怒鳴った後にベッドサイドで静かに涙する姿……。私たちは気づいたのです。旦那さんはただ私たちを困らせるために反発しているわけではないのだ、奥さんをあまりに大切に想っているからこそ、攻撃的な言葉が出てきてしまうのだと。私たち看護師にやり方があるように、旦那さんにだって自分で介護をしてきたというプライドがあったのです。
そこで医師もまじえて相談を重ね、安全性を最優先にしたうえで、できるかぎり旦那さんの望む方法で実践しよう、という方針に決まりました。患者さんは、在宅に戻る予定の方。それなら、旦那さんにとってやりやすく、医療的にも問題のないやり方をお伝えするのが一番だろうと、それからは、病棟医療と在宅介護のすり合わせ作業が始まりました。
誤嚥性肺炎で入院してきたということは、食べ物や飲み物の摂取の仕方が良くなかったということ。「食事の方法はダイレクトに命に関わりますから、そこは、医療者がお伝えする方法を必ず守っていただかなければいけません」とお伝えし、旦那さんの主張と医学的な根拠の交わる点を求めて、お互いが同じ方向を向きながら、寄り添っていける道を探りました。