唐揚げ専用の大きなフライヤーが2つあって、唐揚げを揚げ終えたところだった。唐揚げの隣では、なんと「天ぷら」や「ちくわ天」を揚げているところだった。
唐揚げだけじゃない…「自家製」へのこだわり
その手前には出汁をとりつゆをつくる鍋が鎮座していた。そばつゆも自家製している。唐揚げのフライヤーの隣には麺茹で機があった。そばはもちろんうどんは隣の製麺室で自家製麺して、ここで茹で麺を作っているわけである。そばだけでなくうどんまで自家製麺しているとは、これまた驚いた。
「うちはそばもうどんも、唐揚げもみんな自家製なんですよ。天ぷらも工場で揚げてます。いいでしょ」と茶目っ気のある顔をして植崎さんは話しかけてくれる。製麺室には小麦粉やそば粉の大きな袋が所狭しと積んである。
弥生軒で販売しているものすべてがこの工場で作られているというわけである。そして、完成した商品を小ロットで店へと運搬している。「YAYOIKEN STAFF」というTシャツを着て搬入するのをよく目撃していた。彼らはここから往復していたのだ。
「太っ腹」植崎さんの考案
平成に入った頃、植崎さんは何か名物になるようなキラーメニューを作ろうとスタッフと腐心していた時、唐揚げを思いついたという。しかもどうせなら大きくしようと考えたとか。唐揚げ1つでモモ肉半分。そばに使用する返しに十分漬けて味を沁み込ませる。それを二度揚げしていく。コロモはうすく、外はカリッと中はジューシー。かじるとまず返しの香ばしい味が口いっぱいに広がり、その後鶏肉の旨味が広がっていく。街の唐揚げ屋のスパイスの利いた味とは違い素朴な味である。
「唐揚げを単品で食べる人もいるんですよ」と植崎さんは教えてくれた。単品の「唐揚げ」を注文するとそばのどんぶりに唐揚げ1つを入れそばつゆをかけて提供してくれる。老舗そば屋風にいえば「唐揚げのヌキ」である。170円でこんな粋な料理を朝から食べることができるなんて、なんて素敵な店なんだろうか。
40年間は山あり谷あり
植崎さんは25歳頃から弥生軒にかかわるようになったという。もうすぐ40年だ。その間に店の改革を少しずつやってきた。女性客が入りやすいように店を改装したり、ガラスに目隠しをしたり、目に見えないことも随分と改善してきた。その間に、コロナ禍があり厳しい営業状態も潜り抜けてきた。でも悪いことだけではない。お店のおばちゃんがお客さんと結婚したり、テレビにもずいぶん紹介されたり、山下清ファンが大勢訪れたり。植崎さんは「弥生軒」の行く末やあり方をいつもじっと謙虚に考察しているようにもみえる。
なぜ5・6・8号店だけなのか
さて最後に多くの利用者が不思議に思っていたであろうことを植崎さんに質問してみた。
「なぜ弥生軒は5号店・6号店・8号店だけがあるのか」ということである、すると植崎さん、「よく聞かれるんだよねえ」といいながら、工場前においてあった段ボールに赤いマジックで配置図を描きながら説明してくれた。少し複雑だ。