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「何でうちなんですか?」と言わせてはいけない

南野 「第1回で、ハルが未来に向かって言う『何でうちなんですか? 車椅子っていうわかりやすい障害があるから?』という台詞があるのですが、あれを俳優さんたちに言わせてはいけない、という思いでオーディションを行っていました。一人一人の俳優さんに『この人だから』という理由があって起用している。現場に入ってもらったときも、OA後も『障害があるから選ばれたんだ』と思わせないドラマ作りをしようと、強く意識していました」

櫻井 「脚本の大池さんが『作家としてこの題材をどう台本にするのか』と、我々スタッフと一緒に悩んで葛藤して、書いてくださいました。オーディションをやっていちばん驚いたのは、俳優の皆さんのほうから壁を越えて、どんどん飛び込んできてくれたこと。皆さんと話しながらお芝居をつけて、パフォーマンスをしてもらう時間がとても豊かで。『ああ、この人たちとお仕事したいよね』と心から思いましたし、『あ、このドラマいけるな』という手応えを掴みました」

ドラマ制作に憧れてテレビ局に入った未来が最初に配属されたのはバラエティー班だった ©︎NHK

コミュニケーションを大事に

 障害のある俳優を迎えて撮影を行うにあたって、いちばん気をつけたことはどんなことなのだろうか。

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南野 「撮影上、特別困ったということはありませんでした。一般的なドラマとの違いも、そんなにないと思います。ただ、『障害者』とひと言に言っても、今回集まってくださった俳優さんそれぞれに違う種類の障害があります。車椅子ユーザーの方がいて、聴覚障害の方もいれば視覚障害の方もいるなかで、かなり密にコミュニケーションを取らないと、お芝居の細かいディテールが伝わらないのだと痛感しました。また、撮影の準備段階でも、台本をどういう形状で渡したらいいのか、どうしたら着替えやすいか、どこまでサポートが必要なのかなど、細かいところを俳優さん一人一人に確認しながら対応していけたことがよかったと思っています」

櫻井 「最初の段階で、俳優さんたちが現場に求めることについてヒアリングを行ったのですが、やっぱり初めのうちはお互いどこか遠慮もあったりして。コミュニケーションを深めていくなかで、途中で気づくこともたくさんありました。でも実はこれ、特別なことでも何でもないんですよね。演者が最高のパフォーマンスを発揮できる環境を整えることがスタッフの仕事であり、そこに障害のあるなしは関係なくて。どんな現場でも、俳優さんとスタッフの『表現にかける思い』が掛け算になっていくことが理想です。そういった意味で、僕も今回はすごく勉強になりました」