1ページ目から読む
3/5ページ目

「無能な怠け者」タイプは窓際医師として公立病院の閑職ポストなどで定年までしがみ付くパターンが目立つ。そして件の“竹田くん”のような「無能な働き者」タイプは、数は少なくても患者への被害が甚大である。

「無能な働き者」外科医で有名になったのは、この“竹田くん”だけではない。2014年に群馬大学医学部附属病院で同一外科医に腹腔鏡での肝臓手術を受けた患者8人が死亡した事件はよく知られている。

海外では、英国のブリストル王立小児病院事件が有名だ。1990年代に同病院での小児心臓手術で53人中29人が死亡したが、同地域には小児心臓手術の可能な病院が1カ所しかなく、公立病院のため競争原理も働かず、麻酔科医が内部告発することで社会に知られる問題となった。

ADVERTISEMENT

医師の「働き方改革」で救急医不足

不可解なのは、C病院がこの“竹田くん”をなぜ採用したのかということだ。当然、それまでの彼の実績は情報として知っていたはずだ。

実はこの背景にあるのが、2024年4月から施行されている医師の「働き方改革」だ。医師という職業においても、時間外労働の上限は年間960時間となった。歓迎されるべき改革だが、これは「月5回当直」すれば突破してしまう厳しい水準。さらに違反が判明した場合は、医療機関には「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という罰則が科せられる。

残念ながら、「働き方改革」が始まってからSNSを検索しても、「仕事が楽になった」という医師の意見は全く見られない。むしろ「月80時間以上は違法」と制限されたことによって、「80時間以上残業しても、“自己研鑽”という名のサービス残業になる」「労働時間は不変なのに収入が減った」などの恨み節が目立つ。

ゆえに現状では、生死に関わり、時間を問わず患者が運び込まれる救急救命科は常に深刻な医師不足に悩んでいる。“竹田くん”のように「手術意欲の高い40代男性医師」ともなれば「引く手あまた」だったことが推測される。「悪い噂」を耳にしても「ちゃんと監督すれば何とかなるだろう」と過信して採用しかねない。そんな空気に後押しされて、“竹田くん”は転職を繰り返し、結果的に患者への死を含む被害を続出させたということのだろう。