「ホストクラブの魅力って、どういうところですか?」「自己承認欲求が満たされるところですね」
自身が推すホストに5000万円以上の立て替えがあるという結衣(仮名・30歳)さん。一見、身を持ち崩した雰囲気がまるでない普通のOLにしか見えない彼女が、ここまでホストにのめり込んでしまった理由とは…? 作家の大泉りか氏による文庫『ホス狂い』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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ホストクラブは承認欲求を満たしてくれる場所
都内の高級ソープに勤めながら、某有名グループ年間売り上げランキング上位ホストの“エース”である結衣(仮名・30歳)には、現在、担当に5千万以上の立て替えがあるという。あらかじめ担当編集者から、そんな事前情報を知らされていたわたしは、夕刻、新宿の駅からほど近い喫茶店に現れた結衣を見て、正直なところ少し驚きを覚えた。
タートルネックのニットに膝丈のスカート、アウターは黒いダウン。地味なOL風のファッションを身に纏った結衣は、黒髪のセミロングが似合う楚々とした雰囲気の美人だった。身を持ち崩した雰囲気がまるでない。
人は見かけで判断できないこと、誰もが外からは伺えない事情を抱えていることを、十分に理解しているつもりだった。けれども、結衣のルックスと借金の額とが、なかなか結びつかない。
「ホストクラブの魅力って、どういうところですか?」
この女性がホストに狂って、5千万円もの掛けを背負っているということを、道端ですれ違う、誰が想像できるだろう。少しうろたえながら尋ねたわたしに、結衣はしばし考え込んだあと、こう答えた。
「自己承認欲求が満たされるところですね」
「ホストたちが楽しませてくれるから」とか「好みのタイプのイケメンと飲めるから」といった返事を予想していたから、少し意外な言葉だった。
それに自己承認は自分で自分を認めること、他者承認は他人から認められることなのだから、ホストクラブで満たされるとすれば、むしろ他者承認欲求のほうではないか。疑問に思っていると、結衣は言葉を選ぶように、ゆっくりと話し始めた。
「ホス狂いって、評価制度の家庭で育った子が多いと思うんです。テストで100点が取れたら親が優しくしてくれるとか、学芸会で賞を取ったらようやく褒めてもらえたとかで、『頑張らない自分は、価値がない』って思ってる。だから、水商売なり風俗なりで稼いだお金を、ホスクラで使って“結果を出す”っていうことにハマっちゃうんだと思います」