「『まだ一緒にいたい。お金は俺が出すから、ちょっと店に来て』って誘われて行って、それでホスクラの楽しさを知ってしまったんです」

 自身が推すホストを応援するために総額5000万円以上の立て替えを抱えた、結衣さん(仮名・30歳)。大学時代、彼氏がいたにもかかわらず、ホストクラブの楽しみを知るようになったきっかけとは…? 作家の大泉りか氏による文庫『ホス狂い』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)

「まだ一緒にいたい。お金は俺が出すから、ちょっと店に来て」――借金総額5000万円の女性が、最初にホストクラブにのめり込んだきっかけとは? 写真はイメージ ©getty

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彼女が風俗嬢になった理由

 結衣が風俗を始めたのは、ホストが原因ではない。

 大学に入ってしばらくした頃、友人と錦糸町で飲んだ帰り道、路上でキャッチにスカウトされたのがきっかけだった。

「『ガールズバーで働きませんか?』ってキャッチされて。いつもなら断るんですけど、酔っ払ってたから、番号交換したんです。後日、話だけは聞くかと思って、喫茶店で会ったら、ちょうどガールズバーの募集は終わってしまったと言われて、代わりに紹介されたのがピンサロ。『接客する30分のうち、10分はお客さんと話してください、5分は片付け。残りの15分だけちょっとエッチなことをしてください』って説明されて。

 そのとき、まだ処女で。どうしようって思ったんですけど、わたし、浪費癖があって、欲しい洋服とかバッグとか買うのに、大学の奨学金に手をつけちゃっていて、親にそれを返すように言われてたんです。だから、『処女でもいいんですか?』って聞いたら『指入れとかはあるけど、大丈夫だと思う』って言われたのと、友達が一緒で心強かったっていうのもあって、そのお店で働くことにしたんです」

 ひょんな行きがかりでピンサロに勤めることになった結衣だが、水が合ったという。

「わたし、家では姉にブスとか貧乳とかデブとか、暴言を吐かれながら生きてきたんです。それで自己肯定感がすごく低かったんですけど、お店だとお客さんが、かわいいって言ってくれたり、指名してくれるのが嬉しくなっちゃって。それでたくさん指名を取れるように頑張ってました」

 自己肯定感。これもまた、近頃よく耳にする言葉だ。

 内閣府の調査(令和2年版 子供・若者白書)によると、韓国やアメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデンなどの諸外国に比べ、日本の若者は自身を肯定的に捉えている者の割合が、低い傾向にあるという。

 日本の若者の自己肯定感の低さには、自己有用感の低さが関わっているとも報告されている。自己有用感とは、周囲の人や社会とのつながりの中で、自分が役立っているという感覚だが、結衣の場合はピンサロで働くことで、それを得ることができたのかもしれない。

「あるとき、『今日は女の子が少ないから、ラストまで残って』って言われて。『終電があるから無理です』って断ろうとしたら、『仲のいいボーイのところに、泊まればいいじゃん。お前ら二人なら、何もないでしょ』って。わたしは、実はそのボーイのことをちょっと好きだったんですよね。だから、『やった!』って思って。で、一回目はエッチしなかったんですけど。それで上の人も安心したのか、ラスト要員に使われることが増えて。実は二度目に泊めてもらったときに、セックスをして、以降はヤリまくってたんですけどね」