木更津のアトリエ、沖縄の別荘……。大きいものから処理していった
中尾 でも、飲み友達でもあるお坊さんから「中尾さん、ちょっと抑えてくれませんか」と言われてしまいまして。やっぱり墓地に並ぶときに奇抜なのはまずかったらしい(笑)。それであの形になりました。その段階で取材を受けて、「終活ですね」と言われたんです。じゃあ、終活って、どんなことをするのかと聞いてみたら、色んなものを整理すると言うから、まずは大きいものから処理していこうと。
阿川 今回、中尾さん夫妻から学んだのは、まずはドカンと大きいものから整理すると。そうすると小さいものの判断がつくようになるんですね。
中尾 その通りです。一番大きいものといったら、建物じゃないですか。東京で住んでるマンションのほかに、木更津にアトリエがあったのと、沖縄にも別荘代わりの部屋を持っていたんですが、それを手放して。
阿川 アトリエにしろ、別荘にしろ、後ろ髪引かれるところはなかったんですか?
中尾 よくよく考えたら、両方ともそんなに行ってる暇はないんですよね。アトリエがなくなっても、絵は残ってるし、別荘がなくなっても、そこで出会った人たちとの関係は残っている。そんなに躊躇はなかったですね。
「迷うんだったら置いておいたら?」
阿川 奥様との間で、大事にしているものにはずれがあるだろうし、意見が食い違ったりはしなかったんですか?
中尾 それがまったくなかったの。だから、うまくいったんだろうね。むしろ、潔いのは僕より、志乃のほうかもしれない。
阿川 そうなんですか!? でも、人のものには潔いけど、自分のものにはなかなか潔くなれないって言うじゃないですか。
中尾 いや、志乃の場合は逆。僕がちょっと迷ってたら、「迷うんだったら置いておいたら?」と言ってくれたんです。そこで一週間考えて、やっぱりいらないとなれば捨てましょうとなった。写真なんて1万枚近くあったけど、1年で春夏秋冬の写真が1枚ずつあればいいんですよ。
阿川 私は手紙が捨てられなくて……。
中尾 私は読んだらすぐ捨てますね。だって読んだら用ないでしょ?
阿川 北杜夫さんからいただいた葉書とか捨てられないですよ~。
中尾 じゃあ、一枚だけ残しておけばいいと思う。建物のあとは、食器、本が大きなものでしたね。食器はだいぶ手放したんだけど、まだ本は完全には整理できてなくて。