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いくら忙しくなっても仕事を断らない理由

中尾 基本的に舞台以外の仕事はそんなに断らないですね。というのも、いまいくら忙しくなっても、昔の忙しさと全然違うんですよ。

阿川 どう違うんですか?

中尾 それこそ、若いときは、5、6冊ホンを持って、朝起きたとき、「どこの局に行けばいいんだろう」ということもありました。ロケなんてたいがい新宿のスバルビル前集合なんですけど、ドラマや映画のスタッフはみんな知ってるから、「おお、おはよう」って違うロケ車に乗って別の現場に行ったこともあります。

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阿川 ハハハ。別のドラマに出ちゃう(笑)。

中尾 その時代を知ってるから、いまの忙しさなんてたいしたことないんですよ。仕事の内容なんかどうだっていいんだから(笑)。

©文藝春秋

■阿川さんからの一筆御礼

 中尾さんのご自宅近く、上野精養軒での対談となったので、担当者ともども少し早めに現地へ赴き、中尾さんオススメのハヤシライスを食べてからお目にかかりました。おいしかったです。テレビ番組の収録現場でお会いしても、カメラが回っていようがいまいが、このたびのように面と向かってお会いしてみても、中尾さんの堂々たる自然このうえない佇まいはまったく変わることがなく、緊張しているのに、ホッとします。

 長年にわたるおしどりご夫婦ゆえの安定感か、死の淵からの生還で鍛えられた逞しさか、はたまた終活後の清々しさによるものか、わかりませんけれど、中尾さんの醸し出す鷹揚(おうよう)力は、そばにいるだけでまわりを安心させるような気がいたします。長らく役者さんと思っておりましたが、この中尾力はもしかして画家の眼のなせる技かもしれないと感じました。今夜も志乃様のお品書きを見てお酒を決めていらっしゃるのでしょうか。

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