3人がホテルの一室で見せるセクシュアルな駆け引き
ストーリーの中心にあるのも、タシとアートとパトリックの関係を通してあらわになる、赤裸々な欲望だ。
この映画のもっとも印象的なシーンである、18歳のころの3人がホテルの一室で見せるセクシュアルな駆け引きは、作品のテーマをそのまま表している。
タシはアートとパトリックの欲望をあおり、キスに誘いながら、結局は肩すかしをくわせる。そして翌日に予定された、ふたりの対戦の勝者に電話番号を渡すと告げ、その欲望を支配する。
欲望が取り結ぶ三角関係の支配者・タシ
コート上でもしなやかな体躯で周囲の目をくぎ付けにするタシは、欲望の支配者であり、欲望が取り結ぶ三角関係の支配者でもある。
支配するタシと支配されるアート、そしてパトリックの、力関係のせめぎ合い。
監督のルカ・グァダニーノは、その力学の変化をダイナミックでエネルギッシュなテニスのゲームに重ね、三角関係の行方を刺激的に、煽情的に描きだす。
とはいっても、特異で奇抜なだけでなく、アートとパトリックの昔日の交流を描く場面は親密で、馬鹿馬鹿しく、友情劇として楽しい。その純粋さの描写が土台にあるがゆえに、その後の10数年にわたるドラマがきちんと胸に響くものにもなった。
そしてあの衝撃の結末――。
メロドラマを越えた、メロドラマの突然変異が、ここに爆誕した。
『チャレンジャーズ』
STORY
人気と実力を兼ね備えたテニスプレイヤー、タシ・ダンカンは怪我で選手生命を絶たれたあと、コーチに転身し、夫のアート・ドナルドソンを世界有数の選手に育てあげる。
だが全米オープン出場まであと一歩のところで、アートの前に立ちはだかるのは、タシの元恋人でアートのかつての親友、パトリック・ズワイグだった。
STAFF&CAST
監督:ルカ・グァダニーノ/出演:ゼンデイヤ、ジョシュ・オコナー、マイク・フェイスト/2024年/アメリカ/131分/配給:ワーナー・ブラザース映画 /6月7日公開