ドメスティック思考の人とは合わない
また、みずきは、普通の日本人と違うことから、直接的に悪意を向けられたこともあるそうだ。
みずき:国内だけに目を向けている人と、海外にも目を向けている人とでは、思考の回路が違うと思う。ドメスティックな思考の人とはたぶん合わないんだよね。そういう人に仕事中、面と向かって「嫌い」と言われたこともあるし。
多様性が謳われる現代社会において、面と向かって「あなたのことが嫌いだ」と言う大人もどうかと思うが、「普通の日本人とちょっと違う」ことが受け入れられない人には、嫌悪感を持たれてしまうようだ。
仕事をする中で、内に向かった思考の人と対峙したみずきは、ここでもやるせなさと息苦しさを感じていたようだ。現在は仕事内容が少し変わり、チームのメンバーも海外経験が多いなど、外向きの志向の人たちと仕事をしているため、精神的な苦しさは軽減されたようだ。
自分のグローバル人材としての価値への揺らぎ
就職活動をするときは、海外経験があるほうが、より評価されるような風潮がある。私自身もそのように言われていた。
しかし、海外経験がある、外向きの思考を持っていても、それは実際の労働環境では百パーセント肯定的に受け取られるわけではない。そのために、EMI実施学部の卒業生には、アイデンティティの揺れが生じ、自分自身について思い悩むようになるのだ。
先述したように、みずきは現在、就職して3年目に入り、ようやく自分の英語能力を生かせるような、海外と関わる仕事をしている。しかしそこには複雑な心境があるようで……。
筆者:いまの仕事についてはどう思ってる?
みずき:やっと英語を使って仕事してるけど、社会人として成長したって感じは微妙かな……英語って、ただツールなだけで、結局お客さんは日本人だし……。
みずき:グローバルってあるに越したことはないけど、必須ではないかなって……。
みずきは、自身のグローバル人材としての価値が揺らいでいると感じているようだ。仕事をする中で英語を使うことは求められるものの、根本的には、社会の歯車として機能するためには、日本人としての態度を保持していなければならない。「普通の日本人」と違うことが邪魔をしてくるのだ。
みずき:ちょっと前に、ヨーロッパに出張に行く機会があって、現地の人と食事会をしたんだけど、そういうときの外国人との立ち回りは慣れてるというか、他の日本人よりも身に染みてるから上手くできるんだよね。でもそれって、日本での業務にダイレクトには関わってこないじゃん。
みずきにとって、日本で働くことは、少し窮屈なのではないだろうか。その原因は、日本独特の企業文化や、仕事で求められる日本人らしい態度にありそうだ。