「人生で初めて付き合った彼は、私より10歳年上で、アルコール依存症かつ、うつ病を患っていました。彼は精神科に通い、薬で時々オーバードーズしていましたし、私に対するDVやハラスメント、性的暴行も日常的にありました」
このとき筆者が「交際前から気付いていたのですか? 交際してから知ったのですか?」とたずねると、三森さんはこう言った。
「最初からわかっていました。逃げたかったんです。ずっと人生が辛くて、逃げるために沖縄に来て、すごく平和で安全な環境だったんですけれど、なんかそれが辛くて……。例えば仕送りの量から同級生との経済格差を感じたり、親子関係まで垣間見えてきて、自分だけが『しんどい』『死にたい』って思っている。『誰にもわかってもらえない』と孤独感で詰まっていたときに、初めて会った“本当の依存症の人”でした。お酒飲んで『死にたい』って言っている人の隣りにいると、『辛いのは私一人じゃないんだ』っていう安心感があったんです」
ところが彼は、機嫌が悪いと些細なことでキレて、大声で怒鳴り、殴る蹴るの暴行を加えてくる。
「父そっくりだったんですよ。自分のことを否定する人の扱い方に関してはプロフェッショナルだったんで、良くも悪くも慣れていたと言うか。父が6時間説教するところを、彼は1時間しかしない。『なんていい人なんだろう!』と真面目に勘違いもしていましたし、『お前がいるから俺は生きていられるんだ』とか言われる度に、『私は必要とされてるんだ! 私は生きてるんだ!』という快感を覚えて、別れられなくなっていきました」
そして前編の冒頭に繋がる。
三森さんは、「別れられないなら、相手を変えてしまえばいいじゃないか」と思い立ち、彼を変えるための努力をし始める。
コミュニケーションテクニックや会話術、傾聴術、恋愛テクニックやアサーティブ・コミュニケーションなど、本を読んだりネットで調べたりして勉強し、彼と接する際に実践したが、全く通用しない。
そしてやっとの思いで話し合いを提案して返ってきた言葉が、
「ふざけんな! 全部お前が悪いんだろうが!」
だった。激昂した彼はいつものように三森さんを怒鳴りつけ、聞く耳を持たなかった。
その日、自分のアパートに帰った三森さんは、彼に別れのメッセージを送ろうと携帯電話を取り出す。
「別れましょう。今までありがとうございました」
文章を作ったものの、どうしても送信ボタンを押すことができない。彼と付き合い始めてから、もう何百回も「別れたい」と思ったが、交際から5年経ってもまだ別れられなかった。